空ハ青ク澄ンデ
□第六話
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目が覚めた時、俺は寝台(ベッド)の住人だった。俺の腕には点滴が為され、誰かが俺の手を握っていた。
其の手の持ち主は、俺の隣で俺が目覚めるのを待って居たかの様に俺の様子を伺っていた。
「……ホーソーン……?」
包帯だらけの病衣を着たホーソーンは、何処か感情の無くなった空虚な表情だった。其れと同時に、俺を母が子を見守るかの様な慈しみ溢れた眼差しで見ていた。
「お早う御座います、夜宵様」
其の笑みが優しくて、温かくて。慈悲深くて。
何故だか、泣きたくなった。
ミッチェルが如何なったか、なんて聞かなくても分かってる。
ホーソーンの手が、俺の手を離れて髪に触れた。牧師らしく、温かな手だった。
其の手が俺の髪を強く引いた。痛みに呻く俺に、感情を失くした様な顔で訊いた。
「如何して、何故、黙っていたのです」
「離せ!」
「答えて頂くまで離しません」
ホーソーンの問いが分からない、なんて云わない。分かっている。
ホーソーンは俺に「何故異能力の事を黙っていたのか」と云いたいのだ。
「フィッツジェラルドと俺の契約を聞いている筈だ。俺は非戦闘員だと」
「ええ、聞いています。然し、其の異能力があれば私も、彼女も此の有様に成らずに済んだかも知れない」
其れは、俺が何度も考えた事だった。そして、切り捨てた考えだ。
「其れは『有り得ない』」
俺はホーソーンの目を真っ直ぐに見つめて断言した。迷わない、迷う心算も無い。
あの時決めたから。
ホーソーンは俺が自分の目を見ると思わなかったのか驚いたらしく、俺の髪から手を離した。
「俺は「世間話」しかしない。時間はあるか、ナサニエル・ホーソーン」
「……話して頂けるのであれば、幾らでも」