空ハ青ク澄ンデ

□第一話
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却説(さて)。
話は戻るが、此処は「横浜」だ。
此の世界では此処を中心に動いていく。時間軸を調べなければならない。
其の為に、俺は町の人にこう聞いた。

「武装探偵社に仕事を依頼したいんだが、どんな人が居るのか?」と。

正直、或る筋を使えば楽に得られる情報だったが絶対に頼りたくなかった。
町の人は優しく分かり易く俺に教えてくれた。

其処に、「中島敦」の姿は無かった。然し、「太宰治」は居た。
時間軸として、織田作の死亡後地下に潜っていた太宰が入社して二年の間だろう。
「入社試験」は俺が来る前に行われた様だ。「蒼の使徒」の事件が新聞に載っていた。

原作が、近い。原作に入れば面倒な事になりそうだ。
然う思うのには理由がある。

一つ、俺に「戸籍が無い」事。戸籍のない異能力者なんて目立つに決まってる。

一つ、俺が争いと無縁の世界で生きて来ていた事。あんな平和な日本に居て、抗争だの戦争だの云われても人を傷付ける事など出来ない。

其の解決策として、俺は目立たない様に「一般市民」として横浜で生きる事にした。
静かに、ポートマフィアにも武装探偵社にも目を付けられない様に。

寧ろ目立ってポートマフィアか武装探偵社に気に入られ拾われる、と云うのがこう云った場合の定石なのだろうが……。
何分俺は女ではないし、両組織とも荒事には引っ張り出されそうなので却下だ。

漫画やアニメであれば、完全に自分が第三者だから「あー面白い」で終わる。
だが当事者となれば話は別だ。こんな物騒な世界の何処に「死なない」と云う保証が有る?
そんな保証は主人公補正だけだ。そして此の世界の主人公は「中島敦」だ。

脇役に過ぎん俺が生き残れる訳が無かろう。
某マフィアの病弱禍狗僕さんに蹂躙し殺された人々の様に。

――――嫌だ。俺は生きたい。
現世に戻る手段は無い。何故此方へ来たかも不明だ。
ならば、生きたい。死ぬのは御免だ。何も分かっていないのに死にたくない。

其の時、俺は決めた。
俺は此の横浜で生きていく。自分の命を優先に考えながら、決して手を汚す事も自分が傷付く事も無く生きていくのだと。

同時に好奇心もあった。
眼前であの白黒の世界で、色付いた果てしなく現実とはかけ離れた世界で起こって居た出来事が起こるのなら。
其れを直接見てみたい、と。
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