空ハ青ク澄ンデ

□第二十八話
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途中で浮き上がる感覚がした。
何度も、何度も。
違和感を覚えて、目を開けようとした。

駄目だ、眠い。

重い瞼は動こうともしなかった。

「少年、こんな所で死んだら駄目じゃァないか」

優しい、声がした。
其れは俺に赤い悪夢を齎(もたら)す声。

「ゴー、ゴリ……」

上手く呼べたかは判らない。でも、白い道化師――ゴーゴリには聞こえた様だ。

「似合わない鬘まで被って、道化師(私)の真似かな?」

ゆっくりと頭が軽くなる。如何やら鬘を外されたらしい。御丁寧に纏めていた髪も解かれた。

「お休み、夜宵」

「少年」ではなく、俺の名前を。
初めて、ゴーゴリが呼んだ。其れから俺のベストを脱がせて枕にした。
駄目だ、沈んでいく。


暫くして、話し声と寒さで意識が戻った。
重い瞼は動かない。疲労の所為だ、指一本動かせる気がしなかった。
でも、話は聞こえる。

「どうやって生き延びた?」

直ぐ近くからシグマの声が聞こえる。シグマも居るって事は、ホーソーンが殺したのかな。
……夢か。俺、死んだんだ。
人生終了(ゲームオーバー)かァ、フィッツジェラルドは怒るだろうな。

「手品師が縛られて死んだら縄抜けトリックを疑わなきゃ!」

否、待て。其の答えは。
其の答えは、つまり。ゴーゴリも、シグマも、俺も……。

「お前は本当に死ぬ筈だった」

シグマの言葉に、俺は生きている事を知った。あんな高さから落ちたのに、生きているのだと。
じゃあ此処は一体何処だ?何故ゴーゴリが生きている!?
混乱した俺の疑問と同じ様に、シグマがゴーゴリへと聞いた。

ゴーゴリの答えは、一瞬理解出来なかった。
自由意志の証明。其れは理解出来たし、予測出来た。

世俗の倫理観と云う名の拘束。
ありとあらゆる客観的な理論と云う名の主観。
感情による正義の横暴さ。
然う云った物に拘束されない、自由意志の証明なのだろうと思っていた。

誰が、「感情其の物からの脱却」だと思うのか。
そして、誰が「親友を殺す事で証明する」と思い至るのか。

正直に云えば、吐きたかった。吐き気がするし、俺の理解の範疇を超える。

とんだ思い違いだ。
是程俺の理解を超える、否、常軌を逸脱した人間が居るとは。

「其の、少女は?」
「少女?残念!少年だよ」

俺についての話は聞こえるけれど、正直聞いていられる程精神は強くない。
只今絶賛大混乱中だ、もう暫く待って欲しい。と云うか寝たい、寝よう。

「少年……?」

シグマが俺に触れた。其れから暫くして、疑問の声を上げやがった。一寸腹立つ。
優しく、布越しの手が俺の額に触れる。爆笑の声を聞く限りゴーゴリだな。

「一体どんな無茶をしたんだい?こんなに動けなくなって」
「異なる異能力を四つ、使用していたのは見たが……」
「何ソレ!酷い!!」

よしよしと頭を撫でられる。俺は犬か猫か?
今直ぐ止めろっての。
然う思いながらも、再び意識が沈んでいく。

「如何して、君は縛られる事を望むのだろうね」

ゴーゴリの、酷く頼りない声が。
沈んでいく意識の中で響いている様な気がした。
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