空ハ青ク澄ンデ

□第二十七話
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「ホーソーンが、来ると思ってる。アンタにした事、許してねェし」

だから、天空カジノに行って来る。俺は然う云った。フィッツジェラルドが首を振る。

「俺は戦場には立たないよ、フィッツジェラルド。唯、見て来るだけ。天空カジノの中には入る心算無いから」

だって、見付かったら面倒だろ?
然う笑ったらフィッツジェラルドは妙な顔をした。俺の発言の意図が読み取ろうとしている。

「忘れた?アンタは≪組合≫の団長サマだ、アンタに「最初に見せた異能力」を」

傍らに有った緋色の小説を引っ張って、手の中に収める。久し振りに握った感覚がする其の本に、俺は云った。

「『白鯨』」

緋色の小説から小さな白い鯨が現れた。俺を心配する様に傍に寄って来る。
フィッツジェラルドが呆然と『白鯨』を見る。

「忘れた?二代前の団長の異能力を、アンタが佳く見ていた其の異能力を」

フィッツジェラルドは「否」と笑った。『白鯨』に『細雪』ならば或る程度の時間稼ぎになるだろう。
フィッツジェラルドがフッと立ち上がって俺に何時もの女物の服を渡した。
否、何時もとは違う。

「コレ……!」
「君は「中性的な男」だと認識されている。「俺の娘」なら、暫く軍警共の目を欺けるだろう」

俺は迷わなかった。用意された鬘(ウィッグ)で金髪に変わり、顔をテープで固定して骨格を少し変える。佳く有る仮装(コスプレ)手法だ。

其れから動き易い、北欧宗教(ゴシック)風のミニスカートとブラウスを着る。少しキツ目のベストでブラウスを押さえているから、高度が有る天空カジノでも動き易いだろう。
靴も何時もは厚底の長靴(ブーツ)だが、今回は高踵(ヒール)の低い物になっている。

「じゃ、行って来ます」
「絶対に、軍警には捕まるな。命令だ」
「了解、絶対に戻るよ」

俺はフィッツジェラルドに約束して、ビルを出た。当たり前だけど、中原中也はもう居なかった。
其の儘、港へと向かう。人の少ない場所を狙って『白鯨』の中に這入った。其れから『白鯨』に『細雪』を発動させて見えない様にし、上空へと向かう。

『白鯨』は元から出来たのか出来なかったのか判らないが、躰の一部が透明化した。御蔭で外の様子は丸見えだ。
以前、寝かされていた空中要塞の『白鯨』とは違う。寝台も無いし、家具どころか扉の一つも無い。だが、居心地は悪くなかった。

「『白鯨』、頼むな」

『白鯨』は俺の声に応える様に一鳴きした。
其の時だ。物凄い爆発音がして、『白鯨』は速度を上昇させた。其れから天空カジノを見下ろせる場所まで来て止まった。

「……是が、天空カジノね。俺の記憶には全く無ェな」

こんなデカいのが空を飛んでいたら、何時も空を見上げていた俺に判る筈だ。なのに、其の一部も記憶の欠片に無い。

「爆発音、戦闘音……煩いな……」

他人事の様に呟いて、見下ろした。本当は、間近で何が起きているのか把握したい。でも、オルコットに云われた通り俺では逃げ切れない。

俺が姿を現すとするのなら、たった一度。
ホーソーンが現れた其の時だけ。
其れ以外は現状把握と情報収集が俺の役目だ。勝つ為の策略はオルコットに任せれば善い。

却説(さて)、ドストエフスキー。
アンタは如何動く?何処まで探偵社を追い詰める?
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