空ハ青ク澄ンデ

□第十一話
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「却説(さて)」

仮面の男は俺の方に「其れ」を仕掛けようとしてきた。多分、俺が誰なのか分かっていないのだと思った。

アンタに殺されたくない。だから……俺は。

「『羅生門』!」

其の異能力名を呼んでみた。此処で死にたくない。死ぬ訳にはいかない。
すると、本は社長が持っていたらしく俺の服から異能力の触手擬きが出て来た。間違いない、『羅生門』だ。

俺は其の侭、『羅生門』で刺客を捕まえた。抵抗する事も無く、刺客は大人しく捕えられた。
意識の途切れそうな社長の目が、俺と刺客を交互に捉えていた。

「……もう、止めろよ。アンタのそんな姿、見たくないよ!!アンタが組合を抜ける時に云えば良かった!!絶対に鼠の所に行くなって!!今更後悔してるよ!!」

俺は月に照らされた刺客を見上げた。『羅生門』に磔にされているのに、抵抗一つ見せやしない。
俺だって、気付いたのかな。それで、元に戻ればいいのに。
嗚呼もう、泣きそうだ。

「なあ!!何とか言えよ!ナサニエル・ホーソーン!!」

名前を呼ぶと刺客、基ホーソーンは静かに『羅生門』からするりと逃げた。確り捕まえていたと思っていたが、矢張り組合幹部には実力で劣るか。

「嗚呼、探しましたよ」

地面に下りたホーソーンが俺に近付いてきた。俺は社長の前に立っていた。異能力が使える今、此の人を此れ以上傷付けさせない。

ホーソーンには。

「『金色夜叉』」

久し振りに『金色夜叉』を呼び出した。夜叉はホーソーンと俺の間に刀を構えて、以前は無かった境界線を生み出した。
今の俺と、ホーソーンは敵同士だから。

「来るな、ホーソーン。今のアンタは、組合の幹部じゃない。……アンタの主は、何と云ってた?」

ホーソーンは俺に見せていた、彼の優しい笑顔を俺に向けた。相変わらずの其の笑顔に、俺はつい油断した。

「貴方を、無傷で連れ帰るようにと」
「ホーソーン!?」

『緋文字』が俺の躰に巻きついた。元々の疲労に加えて、『緋文字』に俺を眠らせるとでも書いたのか強烈な眠気に襲われた。
――――駄目だ。社長を、此の儘にしておけない。

然う思った俺は、最後に異能力名を叫んだ。

「『汚れつちまつた悲しみに』!」

俺の手が触れている場所が、重力をかけられて大きく音を鳴らしながら窪んだ。此れで、誰かが気付いてくれる筈だ。

社長を、福沢さんを、助けて。
ホーソーンに此の人を殺させないで……!

「流石ですよ、夜宵様」

俺に声をかける、其の一瞬だけ。俺は以前の……組合を抜ける前のホーソーンを思い出した。フィッツジェラルドに利用されない事を願っていると云っていた彼を。

今……利用されているのは、アンタなのに。
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