空ハ青ク澄ンデ

□第五話
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俺が訊くと、相手は慌てた様子で半ば怒鳴る様に質問で返した。

「何処に居る!?」

其の慌てっぷりが可笑しくて、笑ってしまった。
俺なんて、娘に似ているだけのアンタの所有物以外の何でも無いだろうに。

「アンタ、らしく……ねェなァ……」

眠くて呟く程に小さくなってしまった声に、フィッツジェラルドは慌てていた。
其れが、俺が知るフィッツジェラルドとはあまりにもかけ離れていた。
俺が知るフィッツジェラルドは、此の程度で狼狽えない。何処までも予想通りで、些細な問題(トラブル)なのだと言いたげで。
余裕綽々な男だったのに。如何して、俺なんかの事でこんなに取り乱して。……まるで予想外だと云わんばかりに焦って。

嗚呼、然うか。「契約」が有ったな。
ボンヤリしてきた頭で結論を出すと、俺はフィッツジェラルドに苦笑しながら云った。

「契約なら、心配すんなよ。今回が全くの予測外なら、契約の範囲外だ」
「そうじゃない、何処に居ると聞いているだろう」

如何やら俺は、フィッツジェラルドを怒らせた様だ。苦笑しながら、周りを見渡した。
全く見覚えのない街だ。……お手上げだな。

「駄目だ、横浜の筈なのに分からねェ。お手上げだ。……でも、多分アンタの直ぐ近くの筈だ」
「分かった、直ぐに迎えを寄越す」

云うが早いか通話が切れた。身を隠すか、と俺は路地裏の方へ入り込んで座り込んだ。
もう歩けない。眠気の方が限界だった。

これから組合も荒れるだろう。そして、俺は「知っていて」ホーソーンとミッチェルを見捨てた。
二人には恨まれて当然だが、最低限の事はした。まあ、俺の云う事等聞かんだろうが、な。
次に出て来る「魔人」の為には必要だったんだ、仕方ないだろう。

其れより考えなきゃ……、これからの事を。
ポートマフィアには梶井から伝わっているだろう。
「人虎が二人存在する」と。そして、「俺が「中原中也が気にかけていた少年」だ」と。

俺はただの読者で、紛い物に過ぎない。本来人虎はただ一人。

そして隠れるのはもう終わりだ。遅かれ早かれ気付かれるだろうから、俺から名乗っただけの事。
幹部と知り合うってのは、其れだけで目を引くのだから。

「……何か、疲れたなァ……」

今日も腹立つ位に青い空を見上げながら、俺は重い瞼をゆっくりと閉じた。
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