短編集

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「そういえば、この間新しいカフェがこの通りにオープンしたらしいんですよ!」


「……」


「なんかオムライスが美味しいって噂なんで、今度友達と行こうかなぁ〜って思ってて!」


「…………」


「ケチャップ自由に使えるみたいだし、すっごい楽しみです!」


「………………。」










毎日こんな感じだ。

耐えられるだろうか、この拷問。

どうでもいい話を自宅に着くまで後方で喋られ、しかも殆どが会話として成り立っていないから、完全に<一緒に帰ってる>より<男の後ろを付け回し独り言を喋ってる>図が完成してる。

別に独り言を零してるぐらいならもう家ででもなんでも零せばいいと思う。





問題は、僕まで注目を集めていること。

割と学校から家は近いので、このままでは近所の評判にもよろしくない……。

でも、レイの攻め方には隙がなく、たとえ隠れたとしてもホラー映画ばりに居場所を見つけてくるから、必ず毎日一緒に帰ることになっていた。





「…………楽しいんですか?」





まあ別に悪意ある訳では無いが(てか寧ろレイの方が悪意ある気がするけど)、一応訊いてみた。





「……アレン先輩がいればhappyなんで!めちゃくちゃ楽しい、ですよ!」


「………………ふ〜ん………、」





見るからに不自然な笑顔を浮かべる彼女を、前を行ってるアレンは見えなかった。





「________てか、初めてですねッ!
先輩が話しかけてきてくれるなんて!!」


「別に……。
貴女が可哀想な目で見られてたのに気付いてなかったから教えてあげたんですよ。」


「ふふ、それでもいいです。」


「………………、」





やっぱり、彼女は変だ。










ストーカー的思考>論理*不穏










「あっ、ねぇレイ!
あれ、アレン先輩じゃない?」


「えっ!!どこどこ!?」



次の化学の授業のため、移動していたレイと友達。

すると、アレンの姿を目敏く見つけた友達が、レイの肩をトントンと叩いた。



確かに、彼女の指さす方向には、愛しのアレン先輩が。

しかし、ひとつ問題がある。





「……………………」


「……あ、リナリー先輩も……………」





そう、アレン先輩は、同じ学年で同じD組のリナリー先輩と話していた。

しかも、仲良さげに_______





「は、ははは……ほら、レイ行こっか……。もうすぐで始まるから。」


「…………………………。」





友達が必死に腕を引くも、その場から離れないレイ。

これは不味ったと、彼女は頭を抱えた。















「やっぱ、絵になるよねぇ……」


「______へっ?」



次の瞬間、レイが感嘆したように呟いた。

瞳を輝かせて、彼らを見ている。



「やっぱ美男美女は違うわー。
最近私もダイエット始めたんだけどさぁ、リナリー先輩みたいに細くなれなくって!

秘訣でも聞こうかなぁ。」


「え?え……っ!?
レイってアレン先輩好きじゃないの!?」



落ち込んでると思われていた影は一切なく、平気そうなレイを見て、また焦り出した友達に、



「うん?好きだよ?世界で一番!」


「…………つくずく変なコよねぇ、アンタ。」


「えー?なんで?」



あっけらかんとレイは笑うのだった。








(だって、私は自分より先輩が大事なんだもん。)





友達がホッとしたように歩き出したのを見て、私も後を追った。



ちょっとだけ、ツキンと傷んだ胸は、気付かないフリをして。






























「あれー?おっかしいなぁ…………」


「どしたんさー?アレン」


「僕の制服……ここに入れたのに、無くなってる。」





体育が終わって、更衣室にて着替える男子たち。

その中で、アレンはロッカーに入れた筈の着替えが無くなっている事に気付いた。

ラビも彼の様子に気付いて、話しかけてくる。





「…………なぁアレン。今ちょっと思い浮かんだ人物がいんだけど。」


「わぁ〜、奇遇ですね!僕も思い浮かべたトコです!」



ニッコリ笑うアレンに殺気のようなモノを感じて、ラビは小さく悲鳴を漏らした。



















ガララッ、



「すいませーん、レイさん居ますー?」





アレンが1年A組の扉を開くと、ザワっと1年生たちがざわめいた。



「…………?」


「えっ!?アレン先輩!?」



しかし、彼女の声が後ろから聞こえて、振り返ると廊下の方にいた。

嬉しそうにこちらに駆け寄ってくる姿は、やっぱり犬だ。



「…………あの、さ。僕の制服知りません?」

「え?制服?」



レイが本当に嬉しそうに笑っているが、いつまでも1人ジャージのまま居たくないので、早急に事を済ますことにした。

しかし、ポカンとするレイに、こちらまで頭を傾げた。





「なんで私が、先輩の制服を……?」


「……君じゃないんですか?」


「何がですか?」


「………………えーーーーー。」





詳しく事情を説明すれば、やっと状況が飲み込めたらしいレイ。

初めて真剣そうな顔をした。





「うーーん。だってさっきの授業、2年生の皆さんは第二体育館に居たんですよね?

1年生も3年生も、そっちの方の教室に授業はなかったと思いますけど……」


「まあ、……って何で第二体育館って知ってるんですか。」


「そりゃ、先輩の事なら何でも!」


「…………………。」





今さらだけど、レイの情報網にアレンは改めて悪寒を覚えた。










事件の匂い?



(「てっきりレイが持ってるものかと」)

(「確かに盗みたくなる気持ち分かりますけど」)

(「やっぱり君だと思うんですけど……。」)



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