短編集
□三千世界の鴉を殺し
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もう朝か、
眩い陽の光が窓から差し込み、未だ布団の中に寝そべる二人を、咎めるように照らした。
そのうち、ふっと目の覚めた白髪の男が、のろのろと重たい瞼を持ち上げ、銀灰の瞳を覗かせる。
そうしてやっと、もう夜は明けたのだと知ったのだった。
「あさ」
なんだか乾いたような口の中に、言葉は反響する。
遠くの鳥がカチカチ、カチカチとしきりに鳴いている以外、静寂を破る存在はいなかった。
いや、彼の隣にまだ夢を見る姿。
「朝だよ、レイ」
気怠くて、心地よくて、幸せな響きを伴い言葉となって発せられたものは、彼女の目覚ましには少し優しすぎたらしい。
むくりと半身を起き上がらせたから、被さっていた薄手の毛布がするりと下に落ちる。
ちょっとの間、それを眺めていたアレンだったがやがて、まだ温もりを持ったそれをレイの体に掛けてやり、それからまた言った。
「起きて、」
温い毛布を掛けてやり、それでも起きろと言う。
寝惚けてもいるのだろうか、
もう朝か、
やっと、朝だ。
長かった夜は明け、遅れた太陽がようやく地球の片面に顔を出す。
始まった、いちにち。
僕らは夜の闇に慣れすぎたようで、光がとても眩しい。
だから、カーテンを閉め切ってしまう。
二人で分け合って、ぎゅうぎゅうになった毛布の中。
温かくて、せっかく起き出した体が、すっかり眠る気になってすらいる。
だけど、こんな平穏が続く日々を、僕らは願っていた。
三千世界の鴉を殺し
(君と朝寝がしてみたい、)
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