短編集
□シャルウィダンス?
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煌びやかなシャンデリアは、人々のタキシードやドレスを幻想に魅せる。
女方の色とりどりの衣装も様々な趣向が込められ、
それはひと時のこの夢を飾り立てる最高のスパイスとして、魅惑的、且つ蠱惑的な彩を会場に齎していた。
ジョージ・ヴィリアーズ貴公が主催するこの舞踏会、
なんでも彼の娘が婚約者を見定めするという趣旨に執り行われているらしい。
まだ社交の場に慣れていなさそうなルイーザ・ヴィリアーズご令嬢が、初々しく挨拶に回っている。
ついには私の所にまでやって来て、
「ご機嫌麗しゅう、フォーサイス公爵様…………」
などとドレスを持ち上げるものだから、苦笑いしてそれに答えた。
"公爵”は私の父であるブランドンなのだけれど……。
やはり不慣れなのだろう。
そこはやり過ごした。
私、レイ・フォーサイスは、多忙の父に代わってこの舞踏会に招待された。
パーティなど行きなれているし、何より自分も狭苦しい屋敷から出られるので、良い機会だと乗り気のまま参戦している。
「これはこれは、フォーサイスご令嬢にありませんか。」
「今夜はパーティに参加されるので?」
「良ければ共にダンスを踊りましょう」
しかし、舞踏会はダンスをしなければいけないので、多くの方々からお誘いを頂いては、相手をする。
その疲れに、段々足が痛くなってきた。
側で演奏者たちがクラシックを弾き始め、先程までのバラードが後味をなくし始めたとき、ようやくダンスから逃れられた。
こんな日にはと頑張って履いた7cmのヒールも、早くに悲鳴を上げているようだ。
(少し、休憩したい…………)
ふらふら覚束無い足取りで、会場の影の人が集まっていない場所に向かう。
すると、不意に腕が掴まれた。
「お嬢様、どちらへ?」
「、アレン…………」
執事であるアレン・ウォーカーが、それらしい服装に身を包みながら、微笑を浮かべている。
さっきまで助けなかったくせに、こういう時だけ狡いんだから。
不満を垂らす、じとっとした黒い大きな眼で見つめられれば、アレンは更に笑みを深めた。
レイの意見など関係ない、執事という身分もお構いなし、といった風貌で、彼はずんずんと腕を引いていった。
「っちょ、なにやってるのよ……!?」
「お疲れの様子なので、少し休憩をとりましょうか?」
「……アレンの言う"休憩”は、"休憩”じゃないから。」
腕を引いて、ずんずん歩むアレン。
既に会場は出ていた。
何処へ向かっているのか、と思いきや、辿りついたのはヴィリアーズ貴公の屋敷にある中庭だ。
ガラスで張られ、美しい花たちがその姿を月の光に晒している、幻想的な光景。
貴族たちの喧騒に明るみを漏らす会場とは、随分かけ離れた清廉な雰囲気に、多少なりとも癒されたのは事実だか…………。
「わぁ…………
アレンがまともに休憩させてくれた」
「僕はいつでも役に立ってるハズですけどね。」
腹黒ドエス執事が何を言うか。
だけど、こんな幻想的な場所にいると、皮肉さえ口を出る気にはならないらしい。
普段も働き詰めで疲れた体を、存分に休められる所だった。
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