短編集
□ストーカー的思考>論理
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キーンコーンカーンコーン________
今日の学業の終了を告げるチャイムが鳴り、生徒たちはわいわいと教室を出ていく。
ある者は部活、ある者は委員会、ある者は遊び、ある者は帰宅。
それぞれの予定で散り散りになっていく彼らを、アレン・ウォーカーは机に伏して見ていた。
……それも暗い面持ちで。
「んじゃアレン!明日な!」
「あぁ……ハイ……」
友達のラビが、新しい彼女なのであろう女子の肩を抱いて、わざわざこちらに来た。
この兎が。
どうせ彼女自慢ついでに僕の不幸を笑いに来たに違いない。
「ぶふっ!……元気だすさアレン。」
予想通り、僕の暗い顔を見てから吹き出すラビ。
そんな彼に腹パンチを食らわせたら、「ぐふっ」と声を上げ崩れ落ちたので、肩を抱かれていた彼女も巻き添えになった。
嗚呼愉快。
(またこの時間がきてしまった)
授業終了のチャイムから、
2分きっかり、
生徒の疎らになった教室には
毎日嵐が訪れる。
ストーカー的思考>論理 *破天荒少女到来
「アレン先ぱーーーい!!」
「うるさいです」
「一緒に帰りましょうっ!」
「やだ」
ガラガラガラッと開かれる扉。
まだ残っていた人たちも、毎度のことなので教室に後輩が入ってこようがもはやスルーだ。
誰かひとりぐらい僕を助けてくれてもいいんじゃないか。
これも毎度思うことで、でもこのD組はロクな連中がいないからそろそろ諦めそうだ。
(いや、負けるな僕……
諦めたら彼女の良いようになる……)
とにかく。
そんなギリギリのラインにて僕の学校生活は成り立ってるので、この後輩女子_____レイも少しは"控える”ということを覚えてもらいたい限り。
例えば教室にこないとか
例えば僕に関わらないとか
もうそれ控えるどころの話じゃないけど、そんなことを常日頃、この前なんて大切なお昼ご飯の時間にまで考えていた僕も、相当なノイローゼになりかけてると思う。
だからいっそ、2年D組の教室はレイ出禁になればいいと思う。
それがいいと思う。
「何ぼーっとしてるんですか?
早く行きますよっ、先輩!」
「いや君のことどんな方法で呪おうか考えてたんです」
「いやんっ!私のこと考えてくれてたんですね……っ!嬉しい!」
「とんだポジティブシンキングですね。君みたいな人が世界中に溢れてれば幸せだと思いますよ。」
「そりゃ、先輩のこと考えるともうその日が
happyですけどね!」
「頭も幸せそうで何より」
全く嫌味を理解できてないレイには手を焼くどころか手首の骨が折れている。絶対。
さらに胃までキリキリしてるから臓器全体で彼女を嫌悪してるんだね、分かります。
あは、今度病院行かなきゃ。
ガタンッ_____
漸く僕の尻が椅子から離れたことで、レイの目が飼い主を待つ忠犬のようにキラキラ輝いた。
そんな顔されると意地悪したくなるのはきっと皆に理解してもらえるだろう。
「デビットぉ、トイレ寄りません?」
「はぁ?何で俺様が______」
「来いっつってんだよギャル男」
「おい弟子性格豹変してんぞ」
散々お預けを食らっといて、飼い主から「ほらおやつだよー……あげなーい」をやられた気持ちはどうだ忠犬よ。
びっくりしたように僕を見るレイの阿呆面が滑稽で、笑いを堪えるのに必死だ。
強引に双子の片っぽを連れてって、女子禁制の聖地・男子トイレに入る。
ギャル男が何かはやし立ててたが、いつも所持してる師匠の僕宛て請求書で頬をペチペチしたらすんなり黙ってくれた。
物わかりのいいクラスメイトで助かる。
「……おい弟子ィ、お前好かれてんのになんで避けて回ってるワケ?」
「なんでって……。
まず説明しなきゃいけないのはアレが好意なのか悪意なのか僕にはまだ計り兼ねるって事ですね。
ほんと、はた迷惑なアm……後輩です」
小便器に向かい合ってるデビットは、トイレに連れてきたくせに自分は手洗い台に座って悠々足を組むアレンの爽やかな顔裏を探ってみた。
しかし、はぐらかしなのか本当にそうなのか、意味のわからない言葉が返ってきた時すでに彼はアレンのこれ以上の闇を知ったら自分が殺られるようなそんな気がして、以降口を噤んだ。
「逆にデビットはストーカーを好意的に受け取れるんですか?」
「…………、相手がどんな奴かにもよるくね?」
「ああ、要するに顔によるって事ですね、
さすがヤリ〇ンは違うや。」
「ブッコロスぞ」
ギッ、とファスナーを閉める音が聞こえて、アレンも手洗い台から着地する。
そこで、ふと考案するようにアレンが持ちかけた。
「デビット、今日一緒に帰りません?」
「は?何が悲しくててめぇと______」
「来いっつってんだよヤリ〇ン」
「だから性格豹変してるっつの…………」
はあぁぁぁと深いため息をつくデビット。
彼も相当な苦労人だが、この際彼女の「一緒に帰りましょ」攻撃から逃れるには1人ぐらい犠牲が必要なものだ。
2人が男子トイレを出る頃、漸くアレンの安寧は守られた……________
「あっ!先輩っ!遅かったですね!」
「「…………。」」
高校生にもなって、男子トイレの前待機とか普通やらないと思うんだけど。
ニコッと笑う末恐ろしい後輩の姿に、アレンは死んだ魚のような目を、デビットは恐怖に満ちた目をしていたという。
逃げたって無駄です、先輩
(犠牲になったのは)
(まさか僕なんて)
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