泣き虫DAYs
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「アレン、レイ〜」
汽笛の音が聞こえる中、それでもまだ目を覚まさない2人に、ラビは起こしかかる。
しかしその手には筆が握られており、寝ているアレンとレイに落書きをしていた。
「おいアレン起きろー。
レイっ、汽車が来たぞー」
「う"ーん……う"ーん」
唸るアレンに、ヒゲやら目やらを書き加えたラビは、完成したレイの猫風ラクガキと一緒に満足そうに見つめた。
「何しとるんじゃお前は!」
「こいつらまーたクロス元帥の夢見てるぜ」
ブックマンに殴られながらも、ラビは愉快そうに笑っていた。
アレンが、師匠のろくでなし〜ッッと最早叫んでいて、レイはベンチから落ちそうなぐらいうつ伏せ呻いている。
「ま、マリアン……。それ以上は……もう…………」
「えッッ!?ナニ!?レイ元帥に何されてんの!?」
何だか事件の香りがするレイの言葉に、ラビがいち早く反応した。
「あぅ…………。ダッ、ダメだって……」
「教えるんさレイ〜〜〜ッッ!!」
「ほれ見たことか。お前のせいだ」
今更ながらに不安を煽るような寝言を零す彼女に、ついにラビは耐えられなくて揺すり起こす。
ブックマンは呆れたように見ていた。
「みんな早く乗って!これ逃すと明日まで汽車ないんだから!」
リナリーの声に、漸く二人を起こし終えたブックマンたちは、颯爽と汽車に乗った。
「はぁ〜〜。
師匠んトコ行くことになった途端、夢見が悪くなった……。
この正直者……。」
ラビのラクガキをトイレで落とし終えたアレンは、ぐったりとした状態で、疲れきったらしく1人ツッコミまでこなす始末だ。
(でも、状況が状況なだけに、文句言ってらんないしなぁ…………。)
元帥殺しが始まったからには、クロスの命も危ぶまれる。
本当は、あの人は殺しても死なないような人間だから何とも言えないけど、もしもっていう事があるのだ。
_____「元帥たちに司令を出してるのはボクじゃなくて大元帥の方々でね、複数の任務を与えられたら、あとは個々の判断で行動するんだよ。」
コムイの言葉が蘇る。
「だから、彼らが今どこにいるか、正確にわからないんだ。」
まあ確かに、師匠の動向は弟子である自分さえも全く掴めないしなぁと思った。
「でもまあ。3人は月に1回必ず本部に連絡してくるから、大体の動きは分かるんだが……。
問題なのはひとり!」
ここで、やっぱりかと名が出てくるあの男。
「クロス・マリアン元帥だ!!」
びしっと差し出されたコムイの人差し指、<クロス・マリアンさん>と書いてある。
芸が細かいと言いたくなったけど、彼も分かりやすくするつもりだったのだろうと黙って聞いた。
「ご存知のとおり、クロス元帥はもう4年近く音信不通。
@死んだ、もしくは
A任務そっちのけで遊んでんじゃねーかと噂は様々……。」
ちなみにボクの予想はA番でした!というコムイに、皆も共感してるみたいだった。
「んが!!」
カチャリとメガネを上げたコムイは、今度はアレンに向けてびしっと小指を向ける。
「キミが現れた!!アレンくん」
またその小指に<アレン>と書かれていて、レイも「お、お〜」と感嘆を漏らしていた。
「クロスの弟子のキミは、3年間ずっと行動を共にしてきたね!!ずっと!!」
目をギラギラと光らせ、不気味に笑うコムイに、アレンは慌てて弁明する。
「む、無理ですよ!?師匠の居場所なんてわかりませんっ!!」
涙まで流してほんとにわかりませんと失神しかけるアレンを隣で見ていたラビは援護した。
「コムイー、行方不明の人間をどうやって探すんさー。」
その言葉に、アレンの団服を掴みかかっていた室長も頷いて、こう語った。
「うん。他のチームはそれぞれ元帥の弟子たちなんだけど、このチームの場合はティムが案内してくれるよ。」
意外な名前が出てきて、二人は声を合わせ驚いた。
「「ティムキャンピーが?」」
「この子は科学者でもあるクロスが造ったものでね、契約主の事は、どこにいても感知できるハズだ。」
なるほど、ティムはクロスが造ったんだもんなーとレイも納得していれば、コムイの光る目がこちらまで捕らえてきた。
「あとは、奴の行動パターンをよく知るアレンくんと、囮になるレイちゃんがいれば、袋のネズミさ!!」
「ひいっ!?私関係ないでしょっ!」
「あと兄さん、それちょっと違う……」
「…………。」
これが馬車での会話の一部始終である。
今でもよく意味は分からなかったが、とにかくティムで探せるらしい。
悪魔のように大声で笑ったコムイに、今では薄ら恐怖が浮かぶ。
会いたいけど会いたくないという微妙なクロスへの思いが、今のアレンの夢見を悪くしているようだった。
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