泣き虫DAYs

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そこに、ミランダの姿はなかった。







「遅かった…………っ!!!」





悔しそうに唇を噛み締めたレイは、とにかく彼女の行方を探るため、劇場の団長と思わしき小太りのおじさんにずんずんと近付いた。



男は虫の居所が悪いらしく、帽子を深く被った人物に距離を詰められると、シルクハットの下から冷たい目を覗かせた。



「あん?……さっきの奴らの仲間か!」



団服を見た男。
スリをおっかけたアレンと仲間だと判断したらしく、客とは大違いの無礼な振る舞いだ。



「金は取り戻したのか!?
大事な金だぞ!!!」



余程頭にキてるのか、人がいるにも関わらず声を荒らげる。

そんな男にもともと気が立っていたレイだったが、ここは冷静にミランダが何処かを教えてもらわねば……。



「……今、犯人確保したところです。
魔女役だったミランダは?」



キレられると聞き出せぬかもしれないので、犯人は捕まえたことにした。

大事なのは彼女の行方……!

















「はぁ?何言ってる!

店の金もろくに守れないような"役立たず女”なんぞ、こっちの知ったことか!!!」






























ドン_______ッ!!!










気付けば、団長の胸ぐらは掴みあげられ、体を地面から離していた。








「ガッ…………!!…………っ、な…………」





「……ふざけんなよ。


それが上に立つ者としての態度か……?



ミランダが、彼女が、


不器用なりに一生懸命やってんの、てめぇだって見てたんじゃねェのかよ…………っ!!!」








団長の取り巻きが、レイから助けようと血相を変えた時、ドスの効いた声がその場の空気を震わせた。



レイの言葉に、周りで傍観を決め込んでいた者たちも、はっとした。










ミランダが、何回も何回も就職に失敗して、落ち込む姿を街の人たちは見ていた。



彼女は、ただ不器用なだけだと知っていた。



そして、ようやく見つかった、彼女の光ともいえるこの仕事______。










一緒に働いていた人らは、ついさっき団長の掛けた褒め言葉に初めて顔を輝かせるミランダを見ていた。



客たちは、ついさっき団長の掛けた酷い言葉に絶望するミランダを見ていた。



確かに、金を盗まれたのはミランダの過失だ。



それでも、それらすべての責任をミランダ1人に擦り付け、<役立たず>などと罵るだけの団長なんぞ、ただただ腹が立って仕方がない。















リナリーから、ミランダは「ありがとう」と言われたことがないと聞いていた。



それでも、健気に100回もの間、こんな小さな街で頑張ったという彼女。



「人にすぐ頼る奴は嫌い」と言ったレイではあったが、彼女だって数日前まで、ずっと努力はしていたのだ。















「少なくとも、


上でふんぞり返って罵倒だきゃ浴びせるてめぇと、


努力してきたミランダじゃ、


天と地ほども差はある!!!」















怠慢に肥やしたその顔面に向かって、

レイは手短に言い捨てたあと、

そのまま地面へ放り、イノセンスを発動してから大急ぎで街中を探し出した。









































「アレンもリナリーもいない……っ!」





劇場へ向かう前、レイが目指していた路地の先には、激しい戦闘の跡が見られた。

きっと、ここで戦っていたのだろう。

降り立つと、そこには凍った地面、血の跡、ティムの欠片らしきものがあった。





「______…………っ、」





たぶん、生きてる。

さっきまでの不安は少し無くなった。





ここに、時空の歪みが感じられる。





ほんのちょっとだけだし、確信も持てるか分からないくらい微妙な歪みだから、見逃しそうになったけれど。





(連れてかれたんだ_____!)





そこには、ミランダもいるかもしれない。

これも勘だし、本当ならミランダの住んでいたアパートへまず確認しに行くべきだろうけど、

レイは自分の六感を信じたかった。










___オン・a・u・m___










目を閉じて、集中することだけに気を向ける。



マリアンの術は、何度か見たことがあった。



あれは確か、時空の違うところにだって通用したはず……________!



マリアンにしか出来ない術だとは分かっていた。



でも、何もしていないのは歯痒くて仕方がなかった。










(どうか、何かの弾みでも起きて……!)





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