泣き虫DAYs

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「アクマが退いた?」



アレンの怪我した右足を消毒しながら、リナリーは驚いたように言った。


「ええ。」


ミランダの家に着いた2人は、リナリーに先ほどあった出来事を報告すると、意に反して安心したようだった。



「よかった。レベル2をあんなに相手するのは、危険だもの。」



新しい銃刀器型の武器はアレンの体に負担がかかって、長い間は発動できないという。

それに、まだレイは傷が癒えてないし、また開きでもしたら、と不安だった。



「あは、ジャンケンなんかしちゃっててねー」



アレンの怪我をティムとつつきながら、レイは面白かったーと笑った。

「いててっ」とアレンが顔を顰めるのを見て、またけらけら笑う。

リナリーに小突かれ、ようやくちょっかいを出すのを止め、、不満そうに唇を尖らす。



「うーーーん………。発動に慣れればいいんですけど……。」


「アレンは細いからねー。モヤシなんだっけ。」


「モヤシじゃないですっ!その呼び方やめて下さいよ……

結構体力つくってるんだけどなあ」



治療が終わって、ガーゼなどが貼り付いた右腕。
アレンはこぶを作ろうと力を込めていた。


「でもちょっと体大きくなったねェ」

「ホント!?」


ちら、とミランダを見るレイ。
ついさっき説明は受けたけれど、レイはミランダの性格がよく把握できていない。


「何してんですか、ミランダさん……」


アレンもミランダに視線を向ける。

そこには、ガタガタと震えながら時計を磨く彼女。


「私たちとアクマのこと説明してから、ずっとあそこで動かなくなっちゃったの……」


まあ、一般人には刺激が強すぎる話なのも事実。





「私ホントに何も知らないのよ……。
この街が勝手におかしくなったの

何で私が狙われなくちゃいけないの……?」



グズグズと、泣き止む気配を見せないミランダに、最初はショックが隠せないんだろうと気に止めなかったレイ。

だがしかし、徐々に彼女の暗い泣き言へと変わっていった。



「私が何したってのよぉぉ〜……
もう嫌、何もかもイヤぁぁ〜…………」



マイナス思考は、それだけで周りの空気までも染色する。

一気に沈み変えった空間は、レイの嫌いなモノ。



「ミ、ミランダさん、」



アレンが気を利かせ、宥めにかかろうとするも、それを遮る悲痛な叫び。



「私……は何もできないの!」



「あなたたちすごい力持った人たちなんでしょ!?」



気迫は増し、その叫びが鋭さを持って3人に襲いかかる。



「…………。」

「(あ……ちょっと、レイ?)」





「だったら、あなたたちが早くこの街を助けてよッッ!!」










「イヤです。」



「………………え、」



「「レイっ!?」」





つうっ、と流れたミランダの涙は、不意を食らって停止する彼女の膝に落ちた。





「私、ネガティブな人は嫌いです。
あと、他人にすぐ助けを求めようとする人。

自分で何とかする前に縋り付く奴には、もう虫唾が走る。」





つらつらとナイフのような言葉がミランダの脆いハートに突き刺さり、さらに彼女はズゥゥンと落ち込んだ。



「ちょ、レイ……。」

「言い過ぎよッッ」



真っ白になっていくミランダに、2人はあたふたとした。



それでも、レイは続ける。





「"自分自身のことについて誠実でない人間は、他人から重んじられる資格はない。"

……………この言葉、ご存知です?」


「……っ!?」





かの有名なアインシュタインの言葉である。

コツン、とロングブーツの音を響かせて、時計に寄りかかるミランダへ向かうレイは、迷った時のような学無き者でも、ティムと怪我をつついていたイタズラっ子でもなかった。





「確かに私たちはエクソシストです。
アクマとも戦えます。

…………だけど、この事件を解決するための鍵となる人物は、



__貴女です。ミセス・ミランダ。__」





ミランダの前まで近寄って、彼女にその真剣な眼差しをすっと向けた。

まるで虚をつかれたような顔をして、散々毒舌を吐いた筈のレイの真面目な顔を見つめた。










「レイ…………。」



傍ではらはらと展開を見ていた2人。
いざという時は止めに入ろうとしていたが、その心配は無用だったようだ。





「私、が………………____?」


「そう。
……"私たち”が解決するんじゃなくて

"貴女”が解決する事に、意味があると思うんだ……________」



「「……??」」





レイは、不思議に感じていたのだった。

この街でただ1人、この怪奇に呑み込まれなかったミランダ。

これにはなにか、深い理由がある。





ただ、確証がある訳ではなかったので、アレンとリナリーには黙っている所存のレイ。









「……確かに、そうですね。
僕たちも、助けます。
でも、その為にはミランダの助けもいるんです。

あなたは街の怪奇と何かで関係してる___」





(やっぱり、皆もそう思った、か。)

ふっ、とレイは心で笑った。





「僕たちに、手を貸してください。」



アレンもミランダの前に進み出て、両手をぱちんと合わせた。



「___明日に戻りましょう。」





とめどなく流れていた涙も、その瞬間溢れる事をやめた。

優しいアレンとリナリーもそうだが、レイの喝がなによりミランダの心に響いたのだ。





(自分自身のことについて誠実でない人間は、他人から重んじられる資格はない……)





確かにそうだ。

いつも、自分は情けない自分から逃げていて、

失敗が怖くて、





(……、)



唇を、強く噛み締めた。

































________カチッ……________
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