泣き虫DAYs
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「なあ、ホントに何も無かったんさ……!?」
「無いってんでしょ。バカラビ。」
さっきまで顔を洗っていたらしいレイが、前髪を括っておデコ丸出しにしながら、怒ったようにそっぽを向いていた。
さっきまでラクガキしてた悪ガキの顔はそこにはなく、ラビは心配で心配でならないような顔をしている。
「でもお前、寝言で変なこと言ってたしさぁ!!」
「……なんか、マリアンとこ行くって決まってから、すっごい悪夢見るんだよね。呪いかしら」
「ぎゃーーーっ!レイは夢の中でアンナコトやコンナコトを元帥に…………ッッ!!」
汽車の席のなかで、向かい合って座る2人は、クロスに怯えたように震えていた。
ガラッッ
「「!!」」
リナリーが入ってきた。
だが、なんとなく怒ってるような顔をしていて、不機嫌だったレイも心配そうに見つめる。
その後、気まずそうなアレンが来たことで、大体の状況は把握した。
(しゅっ、修羅場……!?)
(違うと思うさレイ……………)
「まずは、わかってる情報をまとめよう。」
全員が集まったところで、ブックマンは地図を開き、只今の情報確認をすると言った。
「なんだ、もう取っちゃったのかよ。
面白い顔だったのに。」
「ホントやめてください。」
「…………」どすっっ
「イデ!!」
ラビが、アレンのラクガキも消されていたことに、ぷぷぷと笑ったが、すぐ向かいに座ってる第二の被害者から強烈な足蹴りを受けて、悲鳴を漏らす。
「しゃべるなそこ。
今、私たちはドイツを東に進んでいる。
ティムキャンピーの様子はどうかな?」
「ずっと東の方見てるわ」
感知中のティムが、じぃぃっと1点を見つめていた。
しかし、その方向を向いてるだけで特に反応が無い。
「距離がかなり離れてると、漠然とした方向しかわかんないらしいから、師匠はまだ全然遠くにいるってことですかね。」
「一体どこまで行ってるのかなぁ
クロス元帥って、経費を教団で落とさないから領収書も残らないのよね」
そのリナリーの言葉に、ラビが反応する。
「へ?じゃあ、生活費とかどうしてんの?自腹?」
「主に借金でしたよ。」
アレンの暗い目が居た堪れない……。
レイは苦笑いした。
「師匠って色んなトコで愛人や知人にツケで生活してましたよ。
ホントにお金無い時は僕がギャンブルで稼いでました。」
何ともなしに言っているが、一同ビックリ仰天である。
教団にくるまで領収書がきれることを知らなかったという事より、アレンがギャンブルをしていたなんて……といった雰囲気。
「え?何何?」
バチッ、
ふと、リナリーと視線が合ったアレン。
しかし、
プイッ
(そらした!!)
今度は絶対わざとらしく顔を逸らされ、ガーーんとする。
それを、レイは深刻そうに見ていた。
「やっ、ヤバいよラビ……」
「何さ?」
「アレンとリナリー、修羅場だ……」
「…………レイは1回修羅場の意味調べてこい。」
ラビにこしょこしょと密告するけど、呆れたような視線を向けられた。
次の駅で停まった車両。
駅に弁当屋が開いていたので、リナリーが買出しに出かけた。
すると、降りてくるアレン。
「………………一応聞くけど、何やってるんさ?」
「修羅場見守り隊。」
「あっそう………………………。」
汽車の窓に体を預けながら、刑事並に外の様子を上手く観察しているレイを見て、ラビはどっか行ってしまった。
ここは車両の入口にも近いし、声も少しは聞こえてきた。
(一体、どんな喧嘩……?)
ドキドキしつつも、アレンがリナリーに頭を下げている姿を見る。
その上にリナリーが買ったものを乗せ、何か喋ってる。
しかし、次の瞬間泣き崩れたリナリーを見て、レイはぎょっとした。
(くぉらアレン!何泣かせてんだ!)
盗み聞きしてるレイが言えたことではないが、心でアレンを怒ってやる。
そのうち、リナリーがアレンに何かを言った後、走って汽車に戻ってきた。
「…………ん?一件落着?」
呆気にとられるレイは、興醒めしたように窓から背を向けた。
「なぁんだ。アレンが1発や2発殴られるのかと思ってたのに…………。」
そんなことは言ってるが、結局は穏便に終わったことに、誰より安心していた。
その時、アレンの腕が弁当屋の主人に引かれ、走り出す汽車を見送っていたことなんて、誰も知らなかった。
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