泣き虫DAYs
□11
4ページ/4ページ
「あの……<大事なハート>って……?」
アレンがコムイに訊く。
聞き覚えが無かったのだろう、眉を顰めている。
「我々が探し求めている109個のイノセンスの中にひとつ、
<心臓>とも呼ぶべきイノセンスがあるんだよ。」
_______それは、すべてのイノセンスの力の根源であり、すべてのイノセンスを無に帰す存在。
それを手に入れて、初めて我々は終焉を止める力を得ることができる。
「伯爵が狙ってるのはそれだ!」
コムイの鋭い眼光が、虚空を睨みつけた。
「……………。」
「そのイノセンスはどこに?」
「わかんない」
さっきまでの神妙さはどうしたのか、コムイはいつものコムイに戻っていた。
「へ?」
「実は、ぶっちゃけるとサ。
それが、どんなイノセンスで何を目印にそれだと判断するのかキューブにかいてないんだよ〜。」
頼りない発言に、アレンは停止する。
他の人たちも、驚いた顔だ。
「もしかしたらもう回収してるかもしんないし、誰かが適合者になってるかもしんない。」
長々と不満を零すコムイは、「だから分かんないの!」と最後に締めた。
しかし、今いえることは、まだハートは壊されていないということ。
ハートが壊されれば、すべてのイノセンスが無くなるからだ。
「ただ、最初の犠牲者となったのは元帥だった。
もしかしたら伯爵は、イノセンス適合者の中で特に、力の在る者に<ハート>の可能性を見たのかもしれない。」
当然の考察だ。
ハートは、イノセンスの根本の力なのだから。
「アクマに次ぎノアの一族が出現したのも、恐らくその為の戦力増強。
エクソシスト元帥が彼らの標的となった。
メッセージはそういう事だろう?」
これまで黙ってきたレイは、目を見開いてコムイに尋ねた。
「え…………、コムイさんたちの所にも、伝言があったんですか…………!?」
血相を変えたレイに、一同はビックリしたみたいだが、コムイは冷静に答えた。
「あぁ…………。も、ってことはレイちゃんの所にも、アクマが?」
「えっ、いや…………ハイ。」
"イヴ”についての情報は伝えられないことから、きっと彼らの元に届いた伝言には、その下りは無かったのだろう。
今はまだ、コムイに話したくなかったので、そのまままたレイは口を噤んだ。
「_____恐らく、僕たちやレイちゃんに届いたメッセージは、各地の仲間たちにも同様に送られているハズ。」
その言葉にさえ、何も言わなかったレイ。
「確かに、そんなスゲェイノセンスに適合者がいたら、元帥くらい強いかもな。」
ラビも納得したように頷く。
「だが、ノアの一族とアクマ両方に攻められては、さすがに元帥だけでは不利だ。」
そこで、とコムイは言う。
「各地のエクソシストを集結させ、四つに分ける。
元帥の護衛が、今回の任務だよ。」
残った4人の元帥。
確かに、そうした方が確実に襲撃は免れられる上、エクソシストの集合も保身に繋がるだろう。
「君たちは、クロス元帥のもとへ!」
レイはちょっと考えた後、口を開く。
「あの……。じゃあ私は、このままアレンたちと別れて行動ですよね。
確かクラウド元帥はイタリアの方だし。」
「え!?レイと別れるんさ、コムイ!?」
ラビが残念そうに言うが、コムイはハテナを浮かべながら言った。
「え?レイちゃんもクロス元帥の護衛だよ」
「…………………………はい?」
思わず間抜けな声が出たが、仕方ないと思う。
だって、私はクラウド元帥の弟子で、当然護衛ならクラウド元帥のもとで……。
「確かに、レイちゃんはクラウド元帥の弟子だけど、今回は特別にクロス元帥の護衛をしてもらうよ。」
「え?何でですか…………?」
「そりゃもちろん、
レイちゃんがクロス元帥に気に入られてるから。」
その場を沈黙が襲った。
事情を知る4人を除き、アレンは驚いて、
レイは撃沈したのだった。
(そうだったさ……クロス元帥、めっさレイ可愛がってたしな!)
(まあ、当然の配置じゃろ)
(レイがいれば、クロス元帥も姿を現すかもしれないわね……)
「えええっ!?そうだったんですか!?」
「うん。
まあ昔の元帥は、教団に帰るたびすぅぐレイちゃんのトコ行って、やれ拳銃だやれ鍛錬だって、ずいぶん構ってたものだよ。」
「やめてくださいよコムイさん……。
思い出したくないです…………………。」
初めて知った、師匠の人間っぽい所に、まだ驚きを隠せないアレンだったが、クロスがレイを気に入るのも分かる。
複雑な気持ちを抱いたまま、レイ含めた6人を乗せる馬車は豪雨のなか先を進んだ。
.