泣き虫DAYs
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大きな音が聞こえた、と入院する患者から連絡を受け、黒の教団の関係者を入れた部屋に医者が向かうと、廊下にいる時点で異臭が立ち込めていた。
「うぅ………ッッ!?」
思わず鼻に皺を寄せ、医者の男は恐る恐る閉じられていた病室の扉を叩く。
ドンドンドンドンドンッッ
「入りますよ、フォーサイスさん……」
中から返事は無かったが、何だか胸騒ぎがして、男はガチャッと開けた。
「な…………………ッッッ!!??」
そこにあったのは、化け物の無残な残骸。
派手に壁に飛び散っている血飛沫。
そして、_____________
「______あ、ドクターじゃないですか」
「ヒッ、ヒイィィィィ……………ッッ!!!」
血塗れながらも、窓枠に腰掛け、美しく笑う少女だった。
「こ、コレは、どういう…………ッッ!!」
流石に医者であれば、血は見慣れてるらしく、逃げ出さない度胸がこの男にはあるようだった。
しかし、窓から差し込んだ光で、逆光となりよく見えなかった"物体”が目に飛び込んできて、男は雄叫びを上げた。
"それ”は、何かの発光する糸のようなもので縛られ、少女の前に吊るされながらも叫ぶ。
「ぇ……エクそしすト______ッッ!!
……千年伯爵サマカラノ伝言ダ………………」
"時は満ちタ♡”
"7000年の序章は終わり、ついに戯曲は流れ出ス♡”
"イヴの目覚めに神は祝福を与えテ”
"その瞳に世界の終焉を映そうとするだろウ♡”
"______開幕ベルを聞き逃すな”
"役者は貴様らだエクソシスト♡!!”
「うっ、うわぁぁぁぁ!!!」
化け物が喋りだして、今度は腰を抜かす男に、一瞥もせず少女はアクマを見つめた。
冷ややかな目だった。
「…………きっと、
くだらないシナリオなのでしょうね」
「グッ……………ギャアァァァァッッ!!」
少女がグッと手を引いた瞬間、化け物の体が糸によって切り刻まれ、次の瞬間轟音をたてて爆発した。
「…………ッッッ、っっっ!?」
漸く彼女が男に、その底光りする浅緑の瞳を向け、話しかける。
「…………貴方にも、つまらないプロローグを聞かせちゃいました。」
何も言葉に出来ず、男はただ、爆発の残り香漂う凄まじい煙の中で、彼女の悲しげな顔を最後に意識を失った。
気を失い、倒れたドクターを、煙の届かない安全な場所に担ぎ上げて連れていった。
もうすっかり動けるようになった体は、アクマとの対戦でより軽々しい動きとなっている。
だが、医者を担いで運ぶ黒服の少女など、周りの目を一際引いた。
「よっこらしょっ………と。」
取り敢えずは、部屋から離れた廊下の壁にもたれかからせて、その場を後にするレイ。
(______何が、戯曲だ。)
戦で亡くなっていく人々は、所詮ストーリーの一端に過ぎないと。
エクソシストは、シナリオに死す役者だと。
閉幕ベルは、世界が終わる音だと。
「本当に、くだらない…………」
レイは、千年公が道化師に見えて仕方なかった。
ううん、本当にくだらないのは、私の方。
教団が負けようが、伯爵が負けようが、
伯爵が勝とうが、教団が勝とうが、
どうでもいいくせに。
___いい加減、その小芝居は辞めなさい___
耳に甲高い<キーーーン>という音が走り、頭に響いたのは、夢に出てきたあの女性の声。
___貴女は結局、人の死に悲しむような、愚かな女なんだから……___
(っ、違う!私は、大切な人がいれば、それで)
___大切な人って、誰…………?___
(…………………っ、)
___貴女の大切な人は、もうこの世にいない___
___守るべきものも無いのなら、わたしに身を委ねて……___
おんなの悲痛な声に、レイははっとした。
もしかして、このひとは……________
ドン______ッッッ!!!
すぐ近くの部屋から、破壊音が聞こえた。
「……っ!」
その時、頭の奥で鳴っていた耳鳴りは潮のようにゆるやかに引いていき、いつしかおんなの声も聞こえなくなった。
しかし、破壊音が聞こえたのは、確かリナリーの部屋がある辺り_____。
「リナリーッ、コムイさん、……ッッ!」
駆け出したレイの足音が、今度はしんと静まった廊下に高く響いた。
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