泣き虫DAYs
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「へっくしょい!!」
街の喫茶店、その店内でくしゃみをした少年を、向かいに座ってる少女が咎めるように見つめる。
「これは何?……アレンくん!」
アレン、と呼ばれた彼は、ズビ、と鼻を啜りながら、
「……すみません。」
と、困ったように笑った。
彼女の手にあるのは、1枚の紙。
人の顔、それすら解読に難があるというのに、そこからは変な線が飛びてて、人間というよりは<妖怪>の方がしっくりくる絵が描かれている。
「すみませんじゃない。
どうして見失っちゃったの。」
「すごく逃げ足早くて……この人。
でも、ホラ、似顔絵!
こんな顔でしたよ」
やはりこれは、人の顔らしい。
だが、少女にはそうは見えなかった。
「似顔絵……?」
「あれ……?」
これは、捜索に難航がありそうだ。
そう感じ取った少女___リナリーは、不毛な"これ似顔絵なの”という議論を終了させ、今回の任務の資料を手に話を戻した。
「こんなことなら全員分かれずに、一緒に調査すればよかったね。
昨夜退治したアクマ……
確かにその人に「イノセンス」って言ったの?」
そこが、今回の奇々怪々事件を解決させる核心となる。
「はい」
ガツガツと頼んだ食事を食べていくアレンは、続けて
「道に迷って路地に入り込んだら、偶然見つけて……。
運が良かったです。たぶん今回の核心の人物だと思いますよ」
彼も、一応リナリーとおなじ意見らしい。
だが、リナリーはアレンをじとっと見て、
「アレンくん、今度から絶対一緒に調査しよう」
とこぼしたのだった。
見つけられたのは迷ったからであっても、見失ったのも迷ったからでは、意味がない。
「リナリーの方はどうでした?」
別々に行動していた間、リナリーはこの街の門の方を調べていたらしい。
「んーー……。コムイ兄さんの推測はアタリみたい。
二人とこの街に入った後、すぐ城門にひき返して街の外に出ようとしたんだけど」
この街は、全体で奇妙なところがある。
「どういうワケか、気づくと街の中に戻ってしまうの。」
今回の任務の概要は、こうだ。
<巻き戻る街>……。
何日も、何日も同じ日が続き、その時間は進められることはない。
はじめ、この話を聞いた時は、妙に現実味のない事だな、なんて思ったことを思い出す。
それは、コムイから説明を受けた時……
「たぶんね、たぶんあると思うんだよね、イノセンス」
「……」
大量の本が積まれ、ほぼ埋まってる状態のコムイを、冷ややかに見つめるレイ。
「といってもたぶんだからね、たぶん。期待しないでね、たぶんだから
絶対じゃなくてたぶんだから。でもまあたぶんあるんじゃないかなーってね。たぶん」
曖昧な言葉に、呆れるのも無理はない。
「わかりましたよ、たぶんは」
「うるさいですコムイさん」
コムイに腹が立ったようなレイは、机を小突き、山積みとなった本が雪崩となってコムイを襲うのを見ていた。
「……なんてゆーかさ、巻き戻ってる街があるみたいなんだよね。」
本の間から顔を出し、「ひどいよレイちゃん……」と恨めしげに呻いたあと、ようやく説明に入った。
彼の推測は、時間と空間がとある1日で止まって、その日を延々と繰り返しているのは、イノセンスの影響だと。
その根拠も今回はあるらしく、街に向かわせた探索部隊が一般人同様、門を通れなかったという。
門を潜った筈が、いつの間にか戻っている。
ノイローゼになった問屋の話に顔を青ざめるアレンと裏腹、レイはじっ、と深く考えていた。
「@もしこれがイノセンスの奇怪なら、同じイノセンスを持つエクソシストなら中に入れるかもしれない。
Aただし、街が本当に10月9日を保持し続けてるとしたら、」
「空間が遮断されてて、入れたとしても出てこれないかもしれない……」
コムイの推測に耳を傾けていた3人。
二つ目の理由に、レイが同調した。
「そう。それを調べて回収!
エクソシスト単独の時間のかかる任務だ……
以上。」
疲れきったような表情を顔に滲ませ、ため息を漏らすコムイ。
その様子を思い出すと、ひとつ思うところがあった。
「なんかコムイさん、元気無かったですよね」
ふと零すと、リナリーも同じ事を考えていたのか、少し黙ってから暗い目をした。
「なんか兄さん……。色々心配してて働き詰めみたい」
「心配?リナリーの?」
「伯爵の!」
シスコンなコムイの事だからと考えてしまうが、仮にも彼は室長である。
千年公の動向がまったくつかめなくなって、不安でピリピリしてるのだという。
「伯爵が……」
アレンも、ぽつりと漏らす。
奇妙な凍りついた笑みが頭に浮かんだ後、彼はガシャーンッとフォークを落とした。
リナリーの後ろの席から、こちらを窺う例の女性がいたのだった。
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