泣き虫DAYs
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「今日が何日かって?10月9日だよ、そりゃ。」
何を言ってるのだと、男性はハテナを頭に浮かべたが、それに向かい合う小柄な人影は、帽子を深く被って唯一見える口を開いた。
「……ありがとうございます、」
礼のため、帽子を取ってお辞儀をすると、男性の動きが凍りついた。
金糸のようなプラチナブロンドの髪がはらりと肩に滑り落ち、その瞳は息を呑むほど美しい浅緑。
そして、初めて少女だと気付いた、綺麗な顔立ち。
しかし、少女は頭だけ下げるも、すぐに帽子を被って、街道の雑踏にその姿を消していった。
「やっぱり……自覚がない、のか」
少女ことレイは、困ったように辺りを見渡した。
ゴーレムに、喫茶店に一度集まって持ち寄った情報を交換しよう、と連絡が来たのはつい十数分前。
しかし、レイは未だその店に辿り着けること無く、探しながら聞き込みを再開していた。
(……あ〜、だって字が分かんないし!)
レイは勉強したことがない。
生まれてすぐに、黒の教団の分院に明け渡されたからだ。
家庭教師は、レイが嫌がったから付かなかったので、学など無いに等しい。
せいぜい書けるのは、自分の名前と任務報告に必要な単語くらいだろう。
それでも、普通の人より発想力や思考力があって、周りが驚くような視点を持つのは、生まれながらの賢さだろう。
だが、こういう時に困るものだ。
「うーん……。…………聞くか」
いつまでもこうしていては、埒があかない。
適当に、傍にいた小さな女の子の肩を掴むと、ツンツンしたショートヘアがこちらを振り返る。
「ごめん、この辺りに喫茶店って……」
言掛けるも、その先の言葉が出てこない。
女の子が、こちらが驚くぐらいに目を見開いていたからだ。
「イヴ…………_____?」
「え……?」
"イヴ”とは何か分からないが、女の子は未だ固まったまま、ビックリしたように見つめてくる。
たくさんの人が道行く中、ここで2人だけの時間が止まったように、停止していた。
しばらくすると、女の子は大人びた笑顔をその目に浮かべ、愛しそうに口角を吊り上げる。
「良かったぁ。イヴも、生まれ変わったんだねぇ。」
「え、生まれ変わ……?」
「んーーー。記憶が無いのは残念だけど、きっとスグ僕らを思い出すよぉ」
何を言ってるかわからなかった。
この女の子と私は、何かの繋がりがあるのか?
でも、生まれてから15年、教団の外部の人間とは繋がりが細く、女の子と知り合いという訳では無いハズ。
でも、そんなこちらの戸惑いなど意に介さないように、女の子はニコニコと微笑んだあと、そっと呟いた。
「……千年公も、キミを探してた」
「……………っ!!??」
千年公、といったか。
なぜ、知っている……_____?
「君、何者なの?」
今度は、冷静に尋ねた。
彼女は、ブローカー__千年公の仲間__である可能性が高い。
冷たい浅緑の瞳を向けると、ちょっと残念そうな女の子が言った。
「……やっぱり、何も憶えてないのはショックだなぁ。」
「私は、君を知らない。
人違いじゃないの?」
「僕は知ってるよぉ。キミは、
"僕らの”愛するイヴなんだから、さ」
何も考えられなくなって、レイが茫然と立ち尽くしていれば、女の子はひらひらと手を降った。
「僕だけが再会を喜んでちゃ、千年公に怒られるしねぇ。
またねぇ、イヴ…………__________」
「っ、!!___ちょっと、!!!」
引き留めようとしたけれど、間に人が割り込んで、気付けばその姿は無くなっていた。
「イヴ……って何………………?」
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