泣き虫DAYs

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頬を撫でる風が心地良い。





やっぱりここは、特等席だと思う。

太陽が昇ったことで、木々がその逞しい生命力を煌めかせ、遠くまで澄んだ空が広がる。

霧一つない美しいその光景に、久しく見ていなかった1枚の絵がまた完成した。





(やっぱり、私がいない世界は、美しい)





木の枝から足を放って、ぶらぶらと意味もなく揺らしていたら、不意に声が聞こえた。





聞き覚えがあった。





「レイさん、任務らしいです」





見下ろすと、何枚か落ちている葉っぱの間に、こちらを見上げる銀灰色の瞳を見つける。





ああ、この人は。





「……アレンくん、だっけ」


「えっ、あっ……!そうです!

アレン・ウォーカーっていいます。
あの……よろしく。

(良かった……白髪くんって呼ばれるかと思った)」





リナリーから聞いていた。

名前は"アレン”、

性格は"紳士”で"人当たりの良い”。





確かに、その優しげな瞳は、見る者に彼の内面までも伝えていた。





「どうしてここが分かったの?」


「えっと……リナリーから、"教団周辺の森に、お気に入りの木がある”って聞いて…………」





なるほど。

物腰も柔らかで、きっと"良い人”だ。





「…………わかった。今行くね。」


「ああ、ハイ。
(思ったより、静かな人……?)」





突然だった。





レイが、体長15mはあるだろう木の上から、飛び降りたのだ。





「えっ……ッッ!!!

……っ!?危ない!!!」





咄嗟に、彼女の下へ入ろうと、走った時、





ひとつの風が吹いた。





まるで旋風のような、小さな力だったけれど、微力ながらに落下したレイをキャッチし、どこかへ消え去る。





茫然と見ていれば、初めて彼女が笑いかけた。





「……ふは、アレンって優しいのね。」


「……へ、」


「今、私の下敷きになろうとしたでしょ。

危うくそのまま落ちそうだったって」





どうやら、事故での落下では無かったらしく、自らのイノセンスを使ったようだった。





「なんだ……。そういう事だったんですか。」





誤って落ちちゃったのかと……とまだドキドキしている心臓を押さえていると、レイが不思議そうな浅緑の目で見つめてきた。





ビックリとは違った意味で、ドキドキしそうだ。





「アレンって変な人だね。
私15歳だよ?敬語なんていいのに。」





確かにレイはとても小柄で、見た目でいえばアレンより年下のようにも見える。

しかし、彼女のもつ謎の雰囲気が、アレンの紳士モードを無意識に切り替えていたのだ。





「そう、ですね。うん。
…………そうだね。」





不思議にぎこちなくなってしまう言動に、自分でも驚いている。





だけれど、そんなこと気にもせず、もう1度レイは綺麗な微笑みを浮かべた。





「よろしく、アレン。」















また。

爽やかな一陣の風が2人の間を吹き抜け、

遠い空まで落ち葉を持ち上げていった。
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