だからどうした
□33 一つ
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「ぁ、っ」
熱り立つ先端に指先が触れた瞬間、智樹さんが体を震わせて小さく声を漏らす。
「んあっ、く、ふぅ……あっ」
続けて手の平で撫でると腰をびくつかせながらさっきよりも大きな声を漏らした。
不思議な感覚だ。智樹さんが気持ちよさそうにしていると俺も気持ちよくなってくる。
とは言ってもそれで満足できるわけもないし、むしろもっと欲しくなるのはしょうがないことだ。
だからまた先に謝っておくことにした。
「ごめん、今日は抑えきかないからちょっと急ぐ」
性急に告げると早速人差し指で後孔を撫でる。
そうしながら指先に力を入れれば、待ってましたと言わんばかりに俺の指を招き入れてくれた。
「んんっ! それ言っておけば、はっぁ、何をしても許され、るわけじゃないからっ、な、ぁっ」
「え、許してくれないの?」
「……っ、そういうわけでも、な、ぁひっ、ぃ」
結局どういうわけなのかわからないまま、中指も参戦させて中を広げていく。
途中で指を押し上げれば智樹さんは腰を跳ね上げて首を仰け反らせた。
智樹さんをこんな風に気持ちよくしてあげられるのは俺だけなんだよな、と悦に浸りながら、善がる個所を執拗に攻め立てる。
「うぁっ、んっ、はっ、ぁ、……っあ」
吐息に合わせて揺れる腰がなんともなまめかしい。
それを見ていると俺の中のちっぽけな支えはいとも簡単にぽきっと折れてしまった。
「ああもうだめだ、入れていい?」
「……、ん」
羞恥を孕んだその返事は、真っ二つに折れた支えを更に粉々に砕いた。
今すぐ入れたい欲を寸でのところで抑えつつ服を脱いで、適当に放り投げる。
ふとベッドの周りを見てみると俺の服やら智樹さんの服やらでぐちゃぐちゃになっていて。
明日は宝探しになりそうだ、と想像して笑みを浮かべながら一物を後孔に押し付けた。
「入れるよ」
「……」
ついには返事がなくなった。代わりに俺の手を気恥ずかしそうに掴むからそれを返事として指を絡めとる。
このまま手がぴったりくっついて一生離れなきゃいいのに。
なんて馬鹿げたことを願いながら、力を込めて中にお邪魔する。
「っ、……ん゙んっ」
押し出されるように零れた声が苦しそうだからやっぱり急ぎすぎたのかもしれない。入り口も、いつもよりキツい気がする。
だけど中の方が俺をどんどん受け入れようとしてくれるから腰を止めることはできなかった。
それでもできるだけゆっくり、様子を伺いながら、根本まで咥えさせる。
「智樹さん、ぜんぶ、はいったよ」
そんな報告に初めて体を重ねた時のことを思い出して悪戯心に手を引けば、智樹さんの手が抵抗を示した。
俺の悪戯心を感じ取ったのか、それとも智樹さんもまた初めての時を思い出したのか、それはわからないけどそういう反応をするから更に変態行為をしたくなって困るんだよ。
積極的な右手とは正反対の、顔を隠すようにしている左手の平を人差し指でつつく。
「こっちもいい?」
数分前の俺なら返事も聞かずに無理やり指を絡めて引っ剥がしていたことだろう。
ま、それも悪くないと今でも思ってるけど。でもやっぱり智樹さんから許可を貰えた方が嬉しいし、興奮もする。
早く許可してくれないかな、と待ってる間に手の平で指先を遊ばせる。
「智樹さん」
そうしながら催促するように名前を呼んでみた。
するとピクリと反応した指先が俺の指を絡め捕ってくれた。
だけど顔の防御は頑なままで。
結局はこうなるんだよな、なんてにやけながら絡んだ両手をベッドに縫い付ける。
「っ、……やると思った」
智樹さんはそう言って俺を睨み付けるけど、そんな目にもしっかり欲情してしまうからやっぱり俺が悪かったようだ。
だけどやっぱり顔を背けて責め立ててるのか煽ってるのかわからないような流し目を俺に向ける智樹さんにも原因はあると思う。
「さっきも言ったけど、自業自得だから」
「だから、なん、で。俺、何もしてな……ッんぁ」
腰を押し付けたまま体を揺すれば、智樹さんは体を震わせて俺の手をぎゅっと握り締めた。
俺もまたその手を握り返し、口角を上げる。
わからないならわからないままでいい。
理解されて反応がなくなったら困るし。
「あっ、ちょっ、と、ん……、はなしっ、終わって、な、ひっ、ぃ」
まあ、でも、少し揺するだけで甘い声を漏らして一物をびくつかせるんだから、どれだけ頑張っても無反応にはなれないだろうな。
まあ、でも、無反応になったところでその前の状態を知ってるわけだから、頑張って無反応を装ってる姿で余計に興奮するんだろうな。
そんなことを考えてる間に智樹さんの口からは意味のある言葉が出てこなくなっていた。
気持ちいいこと以外はどうでもよくなるところ、ほんと大好き。
もっと気持ちよくさせて快楽漬けにしてやろうと、体を揺らし続ける。
「んぅ、っ、……ふっぅ、そればっかり、いや、だっ」
そうしていると智樹さんが逃げるように腰をくねらせるから、動きを止めて様子を窺うことにした。
「なんで。深いとこ擦られるの、気持ちよくない?」
「いい、けど、……ま、さたか、は? 気持ち、いい?」
馬鹿なことをした、と後悔した。
どうやら学習しないのは俺も同じだったようで。
智樹さんの言動に興奮するとわかっていながら、無自覚に煽る隙を与えてしまった。そのせいで粉々ではあるけど僅かに残っていた理性は綺麗さっぱりなくなった。
ただでさえ今日は抑えがきかないというのに。
でもさっきのセリフは抑えなくてもいいって解釈してもいいんだよな。
「……じゃあいっぱい突くけど、いいんだよね? 途中で止めたりしないけど、いいんだよね?」
「え、いや、あの、お手柔らか、に゛っ、んん゛ぅ」
抜けそうになるまで引き抜いた一物をまた根元まで一気に押し込こむ。そうして飛び出た嬌声とうねる内壁に興奮と快感を掻き立てられ、何度も腰を打ち付ける。
こんな、欲をぶつけるような抱き方はしたくない。
そう思えば思うほど何故か激しさが増していく。
「あ、ん、っく……ぅ、あっ」
それなのになんで今までで一番嬉しそうな顔をしてるんだこの人は。
「まさ、たかっ、きもち、い、ぃっ?」
「ん、きもちいいよ」
「よかっ、た、ぁっ」
なんで益々幸せそうな顔をするんだこの人は。
「いつもっ、俺ばっかり、いぃ、から、ぁっ、もっと、きもちよくなって」
「っ、ん、だよ……それ」
もしかして激しくされるのが好きなのか、だったら今までのセックスは物足りなかったんじゃないか、とか。一瞬でもそんなことを考えた俺が馬鹿だった。思い上がりもあるかもしれないけど智樹さんを気持ち良くしてるのは他の誰でもないこの俺なんだからもっと自信を持てばよかった。
そう、確かに智樹さんに無理はさせたくないし気持ちよくなってほしい思いであれこれしてるけど、でもそれがイコール気持ちよくないということにはならない。
俺だっていつも気持ちいいのに。
そんな心の呟きにはっとして、腰を止める。
「雅孝……?」
「それじゃ駄目だ」
はっきり言うと不満げな目を向けられたけど構わず言葉を続ける。
「俺も智樹さんと同じ思いだから、どっちかが気持ち良くなるんじゃなくて一緒に気持ち良くなろうよ」
智樹さんは俺の提案に目を柔らかく細めるとまた短い返事をしてくれた。
惜しいけど片方だけ手を放して、智樹さんの一物に手を伸ばす。
いつもならここは動きを緩めて智樹さんを気持ちよくさせることに集中するところだけど、言った通り一緒に気持ちよくなるために再び激しく突き始めた。
そうしながら、脈打つ一物を扱き続ける。
「ん、ぅあっ、ぁ、っ、んンッ」
「はっ、は、ぁっ、ふっ、く、ぅ」
突くたびに智樹さんの口から漏れる甘い声は勿論のこと、自分の口から漏れる荒い息にも興奮してしまうほど、頭の中には気持ちいいしかない。
智樹さんも同じく興奮しているようで、俺を捉えて離さない目は涙と情欲に塗れている。
今までのセックスが間違っていたわけじゃない。満足しなかったわけじゃない。
それでも何故か埋まらなかった空間に収まるべきものが収まったというか。本当の意味で一つになれた気がして幸福感に包まれた。
「まさた、か、ぁっ……まさっ、たか、……っ」
甘えるように、ねだるように、それでいてどこか責め立てているようにも聞こえる声で、智樹さんの左手が空を彷徨っているのに気が付いた。
もしかして、と体を少し倒せばその手は思った通り俺を抱き寄せた。と同時に繋いでる手には力が入る。
「まさたか、もぉ、イッ、く、ぅ」
手の中の一物が大きく脈を打ちながら精を吐き出す。それに合わせてきつく締まる中のうねる感覚に俺も果ててしまった。
抜き出した一物から飛び出る精液が、智樹さんの腹の上で智樹さんの精液と混ざり合う。
こんなところまで一つになるのか、とその様を見ていると血の廻る音が鮮明に聞こえて視線を落とした。
空っぽになる勢いで射精したはずなのに萎える気配が全く感じられない。それどころか更に熱くなっていくのが目に見えて分かった。
「はぁ、っ、はぁ……ごめ、んっ、ほんと、今日の俺、どっかおかしい。ほんとに、っごめん」
息も整わないうちからまた一物を差し込めば、智樹さんは左腕で俺を強く抱きしめ声を詰まらせた。
それから耳元で興奮冷めやらぬ熱い息を吐く。
「おれ、も、……もっとほし、ぃ」
もう本当に、どうにかなりそう。
窓から入り込む月明かりだけが頼りの薄暗い部屋の中、会話らしい会話はなく、荒い呼気音と喘ぎ声と、それらの合間に呼ぶ互いの名前が耳を支配した。