だからどうした

□28 あとで
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智樹さんちのドアの前。騒ぐ心臓を落ち着かせるために大きく息を吐いてから、あらかじめ渡されていた鍵で錠を解いてドアノブに手をかける。その手は自分でも笑ってしまうほどに緊張でぷるぷる震えていたけど、何とか力を入れてドアノブを押し下げた。

がちゃり。確かな感触が手に残る。

いつもは向こう側から開けられるのを待っているだけだったのが、今は、今日からは、こちら側から開けられるんだ。と、感慨深ささえ抱きながらゆっくり扉を開けていく。

そうしてやっと人が通れるまで開き、騒ぐ心臓はそのままで中に足を踏み入れる。

目に飛び込んでくる景色は見慣れているはずなのに、今日はなんだかどれもこれも新鮮で。今のこの気持ちは絶対に忘れないでいようと胸に刻み込む。

そうするとさらに緊張が高まって。


「たっ、だいま……」


出した声は見事に裏返った。

俺がただいまって言って、智樹さんが笑顔でおかえりって迎えてくれて。幸せを噛み締めながらぎゅっと抱き締めて、軽くちゅっとキスをして、といろいろ妄想してたのに、初っ端から躓いて思考回路がシャットダウン。

いや待て。意外と小さな声だったから智樹さんには聞こえてない可能性があるぞ。と、一筋の希望を見出したけど智樹さんが笑いをこらえながら近づいてくるから、もう、いろいろ諦めた。


「ふっ……くくっ、……おかえ、り」

「もういっそ大笑いしてくれたほうが気が楽になるんですけど」


居た堪れな過ぎて顔を手で隠しながらそう言うと智樹さんは一言ごめんと謝ってから大きく笑い始めた。

もう、本当に、穴があったらヘッドスライディングしてでも入りたい。

そんな俺の気も知らずに智樹さんはからから笑い続ける。俺はその様子を指の隙間から盗み見て、楽しそうに笑う智樹さんを見られて結果オーライ、とポジティブに考えた。

少しして、笑いの収まった智樹さんが息を切らしながら再びごめんと謝ってくる。

別に怒ってるわけじゃないけど智樹さんばっかりが楽しい思いをするのはずるい。だから、ちょっと意地悪を仕掛けることにした。


「……だめ。許してあげない」

「っ、ほんとにごめん……」


俺が本気で怒ってると思ったのか、智樹さんは眉尻を下げて申し訳なさそうな顔をする。そうして俺は嬉々として腕を広げた。


「じゃあキスしてくれたら許してあげる」


そう言った途端に智樹さんが騙されたことに感づいたようで顔を背けた。でも「許してほしくないの?」と脅迫にも似たおねだりをすると俺に一歩近づいて、顔を赤くしながらも俺の顔を両手の平で優しく挟んだ。

すかさず智樹さんを腕の中に閉じ込めて軽く目を瞑る。

至近距離にいるせいか、智樹さんの息遣いがよく聞こえる。その息遣いがどんどん近づいてきて。唇に熱い吐息がかかった瞬間、ちゅ、と可愛らしい音が聞こえたかと思えばそれはすぐに離れていった。

え、もう終わり?

小さな不満を感じながら瞼を持ち上げると、顔を真っ赤にしていっぱいいっぱいな様子の智樹さんがいたから感じた不満はどこかに行ってしまった。

初めてするわけでもないのに、キス以上の恥ずかしいこともしてるのに、なんで智樹さんは毎回毎回こんな風に俺を煽るような反応をするんだろう。まったくこの人には一生かなわない気がする。

気を抜くように息を吐けば、智樹さんは不安そうな目を俺に向けた。

笑ったり恥ずかしがったり不安がったり、忙しい人だな。

小さく笑いながら智樹さんを安心させるために優しく抱きしめて、耳元でもう一度「ただいま」と声にする。すると智樹さんもまた俺を優しく抱きしめ返して「おかえり」と声にした。

そうしてしばらく互いに無言で抱き合っていたけど智樹さんの恥ずかしさが限界に達したのか、俺の腕の中で離れようとしているのがわかった。その動きを制するように腕に力を入れる。


「も、もう、いいだろ……っ」

「まだダメ」


それでも逃げようとするから首筋に頬擦りして服の裾から手を忍び込ませようとした。次の瞬間。


「よ、吉井君……!」


智樹さんが力づくで俺の体を押し返した。

それから下を向いたまま俺の服をつかむ手をぷるぷる震わせていたから、今度こそ調子に乗り過ぎたと思って謝ろうとすれば。


「あとで、なら……いいから」


夜の許可をいただいた。

正直に言うと今すぐ押し倒したかったけど、ぐっと堪えた俺を誰か褒めてください。


「あとで、っていつ?」

「しゃ、シャワー浴びてから」

「わかった。約束だよ。その時になってやっぱりやめるなんてなしだからね」

「……男に二言はない」


智樹さんのこの言葉通り二言はなく、飯を済ませて互いにシャワーを浴びた後、ベッドの上でまぐわうことになった。

四つん這いになった智樹さんに覆いかぶさり、背中に唇を落としながら左手で乳首を弄りつつ右手では一物を緩く扱く。感じるところをこすり上げるとびくびくと脈打つ一物も、がくがくと震える腰も、しなる背中も、漏れる息も声も、智樹さんの反応すべてが俺の情欲を掻き立てる。

そのことを伝えようと勃起した一物を尻に押し付ければ、智樹さんの手がシーツをぎゅっと握りしめた。


「……智樹さん、今日はこのまま後ろからしていい?」

「い、いちいち聞かなくていぃ、……っ」

「ちゃんと答えて。俺にどうしてほしいか教えてよ」

「〜っ、……このまま」

「うん」

「後ろから、俺のこと抱きしめ、た、まま……入れてほしい」


顔は見えないけどきっと真っ赤になってるんだろうな、って想像しただけでもう一物がはちきれそうで。でもいきなりぶち込んだりはできないのでいつものように指でほぐしていく。

その間にも忘れずに一物を扱き続ける。


「はぁ、ん……、ぁっ」

「ねえ、智樹さん」

「ん、なっ、に……?」

「さっき俺のを尻に押し付けたとき、入れられるとこ想像した?」


まさかそんなことはないだろうと思いながらも気になったから聞いてみた。だって想像でもしないと後ろからしてほしいなんて言葉が出てくるとは思わなかったから。いや、ほぼ誘導尋問だったけど。

相変わらず強引な自分を反省しながら返事を待っていると、智樹さんが後孔をきゅっと締め付けて一物をびくんと跳ねさせるから、もうたまらなくなった。

智樹さんは「してない」と慌てて否定したけど説得力は皆無だった。


「ほんと智樹さん反応がいちいちエロい」

「っ、だからいつも、何も言うな、ぁっ、て言ってる、だろ」

「だからいつも恥ずかしがる智樹さんが見たいって言ってるでしょ。もう諦めてよ」

「ばか……、っ、ばか、ぁ」


文句を言う余裕もなくなったのか智樹さんはもう一度「ばか」と言うと何も言わなくなった。

そんな反応にまたニヤニヤしながら、指を増やして押し広げていく。


「ここ、擦られるの好きだよね」

「あッ、ンんぅ! そこ、……っだめ」


弱いところを責められることから逃げるためか智樹さんが腰を揺らす。それがもう俺を誘ってるようにしか見えなくて、しっかりほぐれたのを確認してから、指を抜いて後孔に一物の先端をあてがった。

両手の親指で少し後孔を広げて一物をゆっくり埋め込んでいくと、一番太いところが入れば後は吸い込まれるように根元まで咥え込まれる。


「はっ、あ……ッ」

「っ、……はぁ、ともきさん、好き、大好き」


右腕を腹に回して体を支えつつ、左腕で上半身を抱き起す。それから耳元でそう囁きながら何度も首筋にキスをする。そうして智樹さんに余裕ができた頃を見計らって出し入れを始めると、行き場をなくした智樹さんの手が俺の腕をつかんだ。

瞬間、がり、と爪で引っかかれる。


「っ、いっ……」

「ぁ、んっ、ごめっ」

「ううん、大丈夫。智樹さんは? 痛く、ないっ?」

「はっ、ぁ、……ん、っない」

「じゃ、気持ちいい?」

「ん゙んっ、あぁッ、ばかっ……聞く、な、ばかぁっ」

「もう……っ、そんなにばかばか言わないで、よ」


とは言いつつばかという言葉に相変わらずの悦を感じながらイイところをぐりぐりと抉れば智樹さんが腰を前に突き出すから、こっちへ呼び戻すために一物を握り込んだ。すると智樹さんは尻を俺に押し付けるようにして腰を引く。


「んぁっ、いま、だめ、だ、……っ触った、らぁッ、出る……ぅっ」

「今出しても後で出しても同じでしょ。……だから、ね、俺の手にいっぱい出して」

「あッ、……は、ぁっ、う、ぁ……ッ!」


ぐちぐちと卑猥な音を鳴らしながら扱き続けていると智樹さんが腰を震わせて俺の手の中に精液を吐き出した。

力が抜けて片腕では支えきれなくなった体をゆっくり前のめりに倒していく。そうして智樹さんが手をついたところで、俺の手は腰に移動する。


「智樹さん、大丈夫? もうちょっと付き合ってくれる?」


声を出すのもままならないのか智樹さんが無言で頷く。それを確認して俺は出し入れを再開した。

俺と智樹さんの荒い息遣い、肌と肌がぶつかり合う音、たまに漏れる智樹さんの甘い喘ぎ声。それらが聞こえる部屋の中でただ腰を振り続ける。そうして絶頂を迎えた俺は後孔から一物を引き抜いて精液を吐き出した。

先端から出てくる白濁の液体が智樹さんの背中に飛び散る。

俺はそれを眺めながら、言いようのない何かで心が満たされていくのを感じ取っていた。
 
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