だからどうした
□20 誉め言葉
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旅行二日目三日目とどこか落ち着きのない俺と智樹さんを、姉貴と健一さんは心配そうに見ていた。だけど喧嘩の雰囲気ではないと判断したのかそのことには触れないでいてくれた。
帰りの車中は少し気を詰めた様子の智樹さんを助手席に、購入したお土産を仕分ける姉貴と健一さんを後部座席に乗せて、安全運転で道を進む。赤信号で止まるたびにちらりと横目を向けるけどいつ見ても智樹さんは膝の上で軽く握った拳を俯き加減にひたすら見つめているだけだった。
これはやっぱりあれだよな。俺のあの発言のせいだよな。
ああ、もう、なんであんなことを言ってしまったんだ俺は。ほかに言いようがあっただろ。それなのになんだよ「帰ったらしよう!」って。もうほんと俺ってバカ。
と、自分の失態を悔いている間にも車は進み、ついに俺が住むマンションへ到着した。
駐車スペースに車を止めて、トランクから自分と智樹さんの荷物を取り出し、いまだ固まったままの智樹さんを迎えに助手席へ向かう。そこで窓ガラスをこんこんとノックしてからドアを開けた。
「智樹さん、降りて」
「え、あ、……はい」
なんだか俺の分まで緊張してくれているような気がして肩の力が抜けた。それで思わず小さく笑うと智樹さんはぽかんとして、でもそれは一瞬のことで、途端に顔を真っ赤にして車を降りた。
「じゃあ気を付けて。誘ってくれてありがとう。楽しかったよ」
開いた助手席の窓から二人に声をかける。でも姉貴は名指しして言わないと満足してくれないようで、ジト目で俺を見上げていたからしょうがなく「姉貴と一緒で楽しかったよ」と言えばやっと満足そうに「私もよ」と笑ってくれた。
健一さんの運転する車が敷地内を出て見えなくなってから、改めて智樹さんと向き合う。
「……、いいんだよね?」
問いかけに返事はなかった。代わりに智樹さんの首が縦に動く。
どうしよう。今までにないくらい心臓がバクバク言ってる。それなのになんでだろう、頬が緩む。
俺はその締まりのない顔のまま智樹さんの手を引いて部屋に向かった。
ばたん、とドアを閉めて、どさっ、と鞄を床に落として、智樹さんを壁に押し付けるようにして唇を重ね合わせる。それから舌を強引にねじ込んで上あごをこすれば智樹さんの荷物も床に落ちる音が聞こえて、直後に背中に手が回された。
「ん、ふぅ……」
合間に吐き出される智樹さんの息が頬にかかって、そこが異様な熱を持つ。
最後に唇に軽く吸い付いてから離れると、智樹さんは熱に浮かされたように俺をじっと見詰めながら「もっと」と声を発した。
なんでこの人はこんなにも色っぽいんだ。
あまりの色っぽさに眩暈を覚えながらも強請られたとおりに、離れたばかりでまだ濡れている唇に食らいつく。でもあんまり夢中になると玄関から進みそうにないからすぐに離れると、不満そうな、物足りなそうな目が俺を射抜いた。
「ちゃんとベッド行こ」
一人暮らしのワンルームだ。ベッドまでの距離は長いものじゃない。それに靴も履いたままだ。そのことに智樹さんも気が付いたのか足元を見ながら居た堪れなそうに靴を脱いで、改めて「お邪魔します」と今にも消え入りそうな声で呟いた。
俺も後を追って靴を脱ぎ、さっきと同じように智樹さんの手を引いて一直線にベッドへ向かった。そこに向き合って座り、するり、と頬に手を滑り込ませる。
「たぶん自分では止められないから無理になったら蹴り飛ばして逃げてね」
「そ、そんな物騒なこと言うなよ。余計怖くなるだろ」
「じゃあなるべく努力するよ」
小さく笑みを浮かべて、手を首筋に移動させる。それだけでびくびくと震える体を目の当たりにして生唾を飲み込むと智樹さんの腕が伸びてきた。気づいた時にはもう首に腕が回っていて、抱き寄せられ、唇を奪われた。
ちゅっちゅっと可愛らしく啄まれ、そういえば、とさっきのおねだりを思い出した。試しに舌を割り入れればいとも簡単に侵入できたからやっぱりそういうことかと歯列をなぞる。
キスを交わしながら手探りで服の中に手を突っ込み、横っ腹を手の平で撫で上げながら、服を脱がせるようにして手をせり上げる。智樹さんは素直に腕を上げて服を脱がしやすくしてくれた。おかげで手間取ることなく服を脱がすことができた。
あらわになった智樹さんの上半身は、窓から差し込む夕日に照らされて神々しく見えた。
「すげーエロい」
「誉め言葉か、それ」
もちろん、と即答すれば智樹さんは照れ臭そうに「なんか嬉しくないな」と笑った。
「……俺も、脱がしていいか?」
「どうぞ」
腕を少し持ち上げると、智樹さんは「失礼します」とかなんとか言って裾を掴みゆっくり服を脱がせていく。その時、指先がかすかに肌に触れて、妙に興奮した。それなのに俺の服を脱がせた智樹さんが俺の気も知らずにぺたぺたと腹に触れてくるもんだから下半身が一層重くなる。
「やっぱりいい体してるな」
「あの、智樹さん。あんまりぺたぺたされるといろいろやばい」
「あっ、ごめん」
「終わってからならいくらでも触らせてあげるから今は我慢して」
言いながら顔を寄せるとキスが来ると思ったのか智樹さんは瞼を下した。期待を裏切るようで申し訳ないけど俺の唇は智樹さんの唇を通り過ぎて耳へ向かった。そこに、ふう、と息を吹きかければ智樹さんの体はびくっと跳ねた。
耳にキスをしながら後頭部を手で押さえて智樹さんをゆっくりベッドに沈みこませる。
やばいな。明日からこのベッドで眠れるかな。そんな心配は頭の隅に追いやって今は目の前の智樹さんだけに集中する。
相変わらず耳を舌で犯しつつ指先で肌をなぞりながら下半身へ向かうと、ズボンの上からでも熱が分かるくらいに智樹さんの一物は腫れ上がっていた。俺でこんな風になってくれたんだと思うと嬉しくてつい笑みがこぼれる。
「智樹さん、興奮してる?」
「ん、……幻滅した?」
「いや、幻滅する理由なんてどこにもないから」
こうしてる間にもびくんびくんと一物が大きく脈を打つ。その形を確かめるように一物を覆って軽く撫でると智樹さんの口からは甘い声が漏れた。
ズボンの上からでこれなら直接触れたらどうなるんだろう。ドキドキしながら片手で器用にベルトを緩め、前を寛げ、パンツの中に手を突っ込む。布越しではわからなかった浮き出た血管に指を這わせれば腰が淫らに揺れた。
「腰、浮かせて」
そんな腰が俺の言葉通りに浮いた瞬間にズボンとパンツを一緒にはぎとった。
足首で引っかかった靴下も一緒に脱げたから智樹さんは今まさに生まれたままの姿ってやつで。それに加えて智樹さんが恥ずかしそうに顔を背けたりするから、今までにないくらいの性的興奮を覚えた。
ごくり。これで生唾を飲み込んだのは何度目か。
なるべく暴走しないように心を落ち着かせながら足のほうに移動して、立たせた膝を左右に広げる。そうすると智樹さんが相変わらず恥ずかしそうに局部を手で隠す。
「今更隠しても遅くない?」
「き、気持ちの問題、です」
「ま、その気持ちはわからなくもないけど……でも、ちゃんと見せて」
強請るように言って、足の付け根に向かいながら内腿を撫でる。すると局部を隠していた手が観念したようにそろそろ動いた。
その手の下から現れた一物は物欲しそうに、ひくひくと揺れている。
「ぁ、そんなまじまじ見られる、と、恥ずかし……っ」
じゃあ代わりに俺の手で隠してあげよう、と一物を掌で包み込めば、面白いくらいに腰が跳ねた。
恥ずかしさに比例して興奮度が増したのか、先端から透明な液体が滲み出す。それを指先で掬い取って後孔に塗り付ければ喉が引き攣ったような声が聞こえた。
「うすうすこうなることは予想してた、けど、やっぱり吉井君が俺に、その……入れるのか?」
「駄目? 智樹さんがいやだって言うなら替わるけど」
別にそんなところにこだわりがあるわけじゃない。智樹さんと繋がれるなら俺はどっちでもいい。でもわがままを言うと、俺を受け入れてくれる智樹さんを見たい。
そんな思いで後孔の襞を撫でまわしながら返事を待つ。
「べっ、つに、このままでいい」
顔を横に向けて、さらに腕で顔を隠して言った智樹さんに胸が高鳴る。
そして誰一人として、本人でさえも侵入したことがないであろうその場所に、人差し指をゆっくり差し込んだ。