凪に吹きすさべ
□02 それは時化となるか
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耳にあてがったスマホからはゲーセンの賑やかな音とそれに負けず劣らずな渡辺の声が流れてくる。
『お前、今どこ?』
「まだ学校」
「ッ、は、……ぅっ」
『シャツ見つかんねーの?』
「や、見つかったけど……いろいろあってゲーセン無理そう」
『えー』
「はあっ、ふっ、ぁ、はっ、ぅ」
声はなんとか抑えられているものの息は荒いままで。
『ん? 誰かいるのか?』
「いや、一人だけど」
『え、なんか声聞こえるんだけど』
「え、やだ、こわーい」
渡辺とのやり取りに笑いながら立てた人差し指を唇にあてると、倉敷先生は素直に頷いて口にシャツを強く押し当てた。
いい子いい子と褒めんばかりに頭を撫でてやると嬉しそうに目を細めるから更にわしゃわしゃと髪をかき乱す。
「んぁっ」
でも声を漏らしたからすぐにその手を離せば、倉敷先生はそれを名残惜しそうな目で見送った。
『やっぱ誰かいるだろ』
「だから誰もいねーって、……あー、スマホの調子悪いから雑音入ったのかも」
薄ら笑いを浮かべながら立ち上がり、倉敷先生の前にしゃがみ込む。
倉敷先生はもう本当に限界なのか何度も首を振ってこれ以上はできないと主張している。でもやっぱりそれを受け入れる義理がない俺は耳元で「手、離すなよ」と小さく囁いて、倉敷先生の手首を掴んだ。
「っぁ、待っ、て……っ」
『雑音やばくね? 壊れてんじゃねーの?』
「そんなに聞こえる? 買い替え時かなぁ」
とぼけて、掴んだ手首を上下に動かし始める。
「っ、あ、ひっぃ……ふ、〜ぅっ」
「そーだ渡辺。前にゲーセン行ったときに俺が奮闘してたクレーンゲーム覚えてる?」
先生の喘ぎ声が聞こえないよう少し大きな声でやり取りを続けながら、俺の言いつけを律儀に守って一物を離さない倉敷先生の手を激しく上下させる。
「ん、んっ、く、っ、ぅ」
『あー、不細工な猫のぬいぐるみの?』
「そう、それ。今もまだある?」
「っ、ぁ、も、イっ、く……う、ぁっ」
倉敷先生が体をびくびく震わせながら射精する。勢いよく飛び出たそれは見事に俺のシャツを汚してくれた。
『ちょうど目の前にある』
「じゃあ明日行くから付き合って」
『しょうがねーな』
「はっ、はあ、はあっ、は」
「さんきゅ。じゃあまた明日な」
渡辺からのまた明日を確認してから通話を終わらせる。
それを見て、やっと終わった、と気が抜けたのか倉敷先生の目からは涙があふれた。