凪に吹きすさべ
□02 それは時化となるか
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「……」
「……」
バタン。ロッカーを閉じ、頭を抱える。
何かいた。何か変なモノがいた。俺の目はいつの間に妖怪が見えるようになったんだろうか。
……いや、うん、違う、きっと見間違いだ、そうに違いない。
さっきの光景を頭から追い出して、またロッカーを開ける。
俺の目が正常だったことに残念な気分を抱くのはたぶんこの先一生ないと思う。
「……何してんすか、倉敷先生」
「あ、いや、その」
涙目になって、まるでこの世の終わりのような絶望を顔に浮かべる倉敷先生。
そりゃそんな顔したくなるよな。生徒のシャツを握りしめてナニをフル勃起させて、そんな醜態をシャツの持ち主にみられるなんてさ。
で、そのシャツの持ち主である俺はどんな顔をすればいいのかな。
「何やってんだ、佐久間」
そこに第三者の声が聞こえて咄嗟にロッカーを閉めた。
恐る恐る振り返ると我らが二年四組の担任がいた。
見られたか、いや、俺の体が壁になって見えなかったはず。と落ち着かせながら担任の問いに答える。
「いや、ちょっと、……忘れ物を探してて」
「なんだお前もか。見つけたら早く帰れよ」
「はーい」
どうやら担任も忘れ物を取りに来たようで、教卓に入っていたノートを取り出すと教室を出て行った。
とりあえず見られなかったことに安堵の胸をなでおろし、またロッカーに向き合う。
一難は去った。さて、こっちの難はどうしようか。
こんな短時間に何度もロッカーを開け閉めするなんて初めてだよ、と奇妙な初体験を得ながらロッカーの中に「開けてもいいっすか」と投げかければ、ごそごそカチャカチャ、と物音がした後に消え入りそうな「はい」が聞こえた。
そうしてロッカーを開けるといつもの身なりをした倉敷先生が、身を縮こませていた。
猫背にしてごまかしているけど残念なことに膨らんだ股間は隠しきれてない。
とりあえずシャツは返してもらった。でもこれはもう、なんというか、率直に着たくない。
さて、これからどうしよう、と近くの椅子に腰かければ倉敷先生は前の床に正座した。その潔い姿は性癖がバレたことによる開き直りか。
「何か言い訳することは?」
「……ありません。誠に申し訳ございません」
倉敷先生は声を震わせて、床につくほど頭を下げた。
別に俺の身に実害があったわけじゃないからそこまで怒ってはないんだけど。せめて服は弁償してもらおうかな。ワゴンセールとかで一着三百円とかだろうし、形のある謝罪のほうが倉敷先生も気が楽になるかもしれないし。
まあ、それでシャツの件は許すとして。
こんな面白そうなこと、見逃すわけねぇよな。
「頭、上げてください」
許してもらえるとでも思ったのか言葉通りにそろそろと頭を上げた倉敷先生の目は安堵に満ちていた。
だけど俺の顔を見るなり怯えの色を宿す。
「……それ、どうするつもりっすか?」
と、股間に視線を落とす。
こんな状況でもソレは萎えることなくスラックスを押し上げて見事なテントを張っている。同じくそこに視線を落とした倉敷先生が慌てて手で隠す。
今更隠しても遅いっての。
「どう、って……」
「続き、しねぇの?」
「……え」
俺の言葉が理解できなかったのか倉敷先生の反応が止まる。
でも反応があるまで待つのは面倒だったから俺はシャツを先生に投げつけた。それから口角が吊り上るのを感じながら口を開いて。
「さっきの続き、俺に見せて」
と言い放った。