門瑞の部屋

□It's a showtime!(R-18)
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 風呂上りの恋人を、捕まえた。
 ほこほこと湯気の残り香を身に纏わせた身体はいつもよりあったかくて柔らかい気がする。寝室に入っていったところを後ろから抱きすくめてボディーソープの匂いがする首筋に顔を埋めれば、おい、と迷惑そうに手の甲で軽く頭を叩かれた。
「秀吾」
「んー、ただいま。俊」
「そうやなくて、離れろ。あつくるしい」
「うん」
 素直なのは返事だけで、秀吾は俊二を抱き締める腕に力を込めた。長めの遠征試合からようやく帰ってこられたのだ。ご無沙汰だった体温をそうやすやすとは離したくない。
 帰宅したばかりでスーツも脱がないまま、俊二の身体をこちらへ向かせて口づける。抵抗があったのは最初のみ。押しつけるだけのキスを繰り返すうちに開いた唇の間に自然と舌が滑り込むが、微かに酒精を感じて顔を上げた。
「飲んできたん?」
「会社の同期とちょっとな」
 いつもより目元が緩んでいて眠たげなのはそのせいか。
 俊二にも付き合いがあることは知っている。自分だって球団のチームメイトと飲み会に行くことだってある。
 俊二を束縛するつもりは毛頭ないけれど、秀吾の知らないところで知らない連中と酒を飲んでいるというのは……頭では理解できてもいつまで経っても心が慣れてくれない。正直、妬けるのだ。
 秀吾の微妙な心境はもろに顔に出ていたらしい。おまえなぁ、と呆れた声を発する唇を秀吾は再び塞いだ。舌を絡めての深いキスを受け、息を継いだ拍子に俊二が口を開く。
「っ、ふ……すんの、今日」
「嫌か?」
 パジャマの上衣の裾から手を忍び込ませて問うてみる。脇腹を撫で上げると零される吐息は甘さを含んでいた。
「べつに、嫌とかやないけど」
「けど?」
「飽きんの、おまえ」
 思ってもみなかった言葉に素肌を弄っていた手が止まった。身を離して顔を覗き込むが、俊二の顔に浮かんでいたのは純粋な疑問のようで自分が拒絶されているわけではないということに少し安堵する。
 でも。
「飽きる?」
 繰り返せば俊二は俊二で「いや」と少し歯切れが悪そうだ。
「おれやなくて。まあ……ちょお気になっただけというか、いつもおんなじだし」
 秀吾は一つ、瞬きをした。
「そんなら、いつもとちゃうことしてみる?例えば……」
 思考を巡らせながらベッドの縁に腰を下ろした。妙案が下りてくるまでさほど時間はかからず、ぽんと拳を手のひらに打ち付ける。
「自分で脱いでみるとか。うん、ええな、俊、脱いでみて」
 俊二は困惑した表情だったが、やがて嘆息すると寝間着のシャツのボタンに手をかけようとする。
「いやいや、もちょっと、こう、色っぽく」
「はぁ?」
「雰囲気作りやって。な?」
 再度のため息。ボタンを外しかけた手を後ろ髪に突っ込んで頭を掻いたかと思うと秀吾に背を向けた。
 急に黙り込んだものだから機嫌を損ねたかと不安になる。続く静寂に思い切ってもう一度声をかけようとしたその時、時計の秒針の音に混じってぷちぷちと小さな音が聞こえてきた。
 ボタンを外す音だ。
 ゆっくりと前を開けたシャツが肩が抜かれて、つる、と肩甲骨が見えるか見えないかの位置で一旦止まる。ごくりと生唾を飲み込んだ秀吾を、伏し目がちに流された視線が捉えた。眼差しが向けられたまま、焦れったいほど時間をかけてシャツが下がっていき徐々に肌色が露わになる背中。秀吾にしか見ることのない蝶が現れ、ついに衣擦れの音と共に布地が落とされた。
 その場から一歩、秀吾の元に近づいて今度はズボンの穿き口に手がかけられる。けれどすぐに脱ぐことはない。するりとウエストをなぞっただけの指先は、腹を這い上がり自身の胸元へと到達するといつも秀吾がしているみたいにその頂点を撫で摘み弾いて緩やかな愛撫を加え始めた。
 目線を落とし、自分で加える刺激に感じ入っているかのように時折荒れた呼吸を漏らす以外は静かだ。いつもなら絶対にしない、秀吾に見せつけるみたいな行為。高められる期待と呼応して下着の中で自身がむくむくと身をもたげてくるのが分かる。
 秀吾のそんな気配を悟ったのか、俊二は唇の端に笑みを乗せると上衣と比べてあっさりズボンを脱ぎ捨てる。腰掛けた秀吾の膝の上に、ボクサーだけを身に纏った状態で乗り上げてきた。ぺろりと下唇を舐めた後に噛み付くようなキスが降ってきたから腰を掴んで引き寄せる。
 長い指先が秀吾の顔の輪郭を辿って首筋を撫で、迷いのない手つきでネクタイを解いて次々にスーツを脱がしにかかった。自分のときと違って性急に外されるワイシャツのボタン。肩に這わされる手にジャケットごとシャツを脱がされる。
 その間もキスが中断することはなかった。舌を絡めて深くまで犯して、貪るような暴力的なまでの激しい口づけで漏れた唾液が顎を伝って喉元まで流れていく。
 ワイシャツの下に着ていたノースリーブの肌着も引っぺがすようにして放り出されて、俊二が顔を引いた。かと思えば黒いものが横切るのを目の端で捉え、次の瞬間には目の前が真っ暗に覆われる。
 細い何かが目の上に巻かれているようで、頭の後ろで縛られたのか緩く肌に食い込む気配がした。ネクタイで目隠しをされたらしい。
「いつもと違うコト、するのやろ?」
 吹き込まれる囁き。視界が遮られているせいなのか、吐息が耳に擦れる感覚だとか腿の上の素肌と下着の布地の境目の感触だとかをいつもより鮮明に感じてしまっている気がして背筋がぞくりとした。
 耳たぶを口の中に含まれて軽く噛まれ、秀吾は身体を強張らせる。ぴちゃぴちゃと音を立てるようにして舐めているのはわざとか。続いて唾液の流れた顎を喉を、湿った唇が辿って時折強く吸い上げる。口で指で、首筋をしつこく愛撫する動きには既視感があった。
 秀吾が普段、俊二に施しているものだ。
 気付いてしまった瞬間、頭の芯がくらりと熱くなった。
「俊」
 触れようとした手は容赦なく叩き落とされて、肩を強く押す力に背後のマットレスへ沈み込む。腹の上に体重が乗り、胸の辺りで走る鋭い痛みに顔をしかめた。乳首を抓られたらしい。
「おい」
 抗議の声を上げれば笑い声が少し上の離れたところから聞こえてきた。俊二は上体を起こしたままのようだ。
「安心せぇや、秀吾。おれはおまえと違うて男の胸触って喜ぶ性癖ねぇからな」
 胸元を上がっていって下りていく指先は二本か。つつっと触れるか触れないかの刺激がもどかしい。次いでもう片方の手が後ろ手にベルトを外してジッパーを下ろし、パンツの前を寛げた。下着の外からでも分かるほど張り詰めた中心へと布地越しに尻を滑らされる感触に息を詰める。
 酒が余韻を引いているのかそれとも情事の熱にか、酔ったような口調で俊二が囁いた。
「で、どうして欲しい?」
 ゆるゆると動いて秀吾を刺激する下肢の動きに焦れて腰を軽く突き上げて太股を手探ってみれば、俊二も俊二で興奮しているのか息を飲む様子が伝わってくる。
「俊のここに、入れさせてや?」
 腿に置いた手を上へと這わせ脚の付け根から更に踏み込んで。尻の割れ目を指先でなぞると尻たぶを掴み、自身の熱を擦り付けるセックスみたいな動作に俊二が身を強張らせるのが分かった。
「待てができんお犬様やな」
 感じているくせにそんな風に憎まれ口を叩くのはいつものことだ。笑って返せる習慣は身に付いている。
「飼い主の躾が足らんみたいでな?」
 ふ、という微かな息遣いは笑ったからだろう。
「それはそれは。ちゃんと躾けてやらんとな」
 黒い視界の中近づいてくる笑んだ気配に口づけられた。

 ◆◆◆

 ず、と下りてきた熱に包まれる感覚が思考回路を焼いた。見えない分、次の動きが予想できずに翻弄されっぱなしだ。ぐりぐりと奥の壁に先端を押しつけられては離れていき、締め付けられて達しそうになっては被せたゴムごと根元を掴んでせき止められる。
「はは、また固くなった」
「んっ……、ぁ、しゅん!」
 こんなの、生殺しもいいところなのに背筋がぞくぞくして止まらない。やっぱり自分はマゾなのだろうかとかそんか考えがちらりと脳裏を掠めた。
 仰向けになった秀吾の上で腰を揺らす俊二の呼吸は切れ切れだ。バランスを保つために胸についた手のひらがぎゅうと丸められて拳を作る。
 俊二だって口ではあんなことを言って余裕ぶっているけれど実際はかなり限界に迫っていることに変わりないのだ。切なげに眉をひそめた表情が見える気がして、ひくつき始めた内部を突き上げれば一層締め付けが強くなり俊二が高い声を上げる。同時にぽたたと腹に飛び散る熱い飛沫。両の脇腹に触れる太股の筋肉が緊張して痙攣し、上体が小刻みに跳ね上がるのを感じた。かと思えば支えていた脚から力が抜け、一気に体重がのし掛かってくる。
 胸板の上に置かれた拳を探り当て広げると、秀吾は指を絡め引き寄せた。達したばかりで脱力した身体はいとも簡単に崩れ落ちてくるからしっかり受け止めてやる。目の前の気配に唇を押しつければ掠れた笑い声がした。
「そこは目の上やで、秀吾」
 見えないというのはどうも不便だ。秀吾は両手を伸ばした。手のひらが触れるのは滑らかな広い面積で、ぺたぺたと少しずつずらしていけば凹凸と湿った呼気を手の下に感じる。頬に、鼻に、唇。孤を描いた目元はきっと笑っている証拠だ。直接見ることはできなくても、悪戯っぽくて満足気でどこか妖艶な俊二の表情を目蓋の裏に描くことは容易かった。
 人差し指で唇の上をなぞって位置を確かめてから今度こそ唇に優しいキスを送る。俊二の身体から力が抜けた、その瞬間を狙って。
 乗っていた重みをひっくり返してマットレスに沈み込ませた。マウントを取られていた体勢が逆転して、ベッドのスプリングが軋んだ音を立てる。
 挿入したままでの体位変換に俊二が悲鳴を上げる。再び先端から白濁を散らせて身を強張らせているのにも構わず太股を掴んで押し広げ、ぐっと体重をかけた。腰を回すようにして奥とそれから敏感な浅いところを同時に刺激すれば殺しきれない喘ぎ声が漏れる。
「あ、あ、あぁっ!……しゅう、ご」
 組み敷いた身体がびくびくと震える。秀吾をきつく食んでくる中の熱さが心地良すぎて頭が馬鹿になりそうだった。
 くしゃりと微かな衣擦れの音がする。塗り重ねられる快感を逃すために、リネンの布地を俊二が鷲掴んだに違いなかった。大きく引いてから再び穿てば腰を浮かせて身を捩って。汗で額に張り付いた前髪の間から覗く焦点の飛びかけた瞳は快楽に溶けきり、半開きの唇は熱い吐息を零しているはずだ。眦に浮かんだ透明の雫や上気した頬の色まで鮮明に見える気がした。
 見えないのに、見える。
 心に焼き付いた光景は視界があろうとなかろうと、目の前の出来事を映し出してくれている。
 ネクタイと肌の隙間に指を立てて引き下ろした秀吾は、眼下の情景に笑みを漏らした。
「やっぱ、えろい顔、しとる」
「ふ、ぅ……あ、」
 揺さぶられて顔を快感に歪めながら俊二が手を伸ばしてきた。秀吾の首からぶら下がるネクタイのループを震える指先が捉え引く。引き寄せられるままに上体を倒せば深くなる挿入で俊二が呻いた。でも切羽詰まった瞳を見れば求められていることは一つで、秀吾は俊二の両手を片手で一纏めにして頭上のシーツに縫い止めると一回り小さな身体に覆い被さるように唇を重ねた。力の入っていない舌を吸い上げ甘噛みして、呼吸すら奪うような勢いで口内を蹂躙する。
 激しくなる律動から本能的に逃げようとする腰をもう一方の手で押さえつけ、すぐそこに見えている高みを目指して貫いた。口を塞がれくぐもった悲鳴を漏らした俊二は胸と胸がくっつくほど一際大きく頭をのけ反らせ、秀吾の身体を両脚で挟み付けてくる。内部の複雑な蠢きは中だけで俊二が達したことを示していて、締め付けには抗えず秀吾も腰を震わせ薄い膜の中に精を放った。

 ◆◆◆

 達して間もなく意識を手放した俊二の身体を抱き寄せブランケットにくるまる。
 至近距離に映る無防備な寝顔にだらしなく口元を緩ませ、秀吾はその額に唇を寄せた。頭皮から立ち上る、シャンプーの香りに混じった俊二の匂いを吸い込む。
 『飽きんの、おまえ』だなんて。感じている俊二を見るだけで、こちらは堪らない気分で心が満たされているというのに。
 ベッドに沈む身体に覆い被さって、挿入しながらキスをして。全身を秀吾でいっぱいにされるのが俊二は好きで、俊二の好むことを選んでいるから
セックスのルートが似たり寄ったりになるのだろう。そしてそれは秀吾の快感に繋がる。飽きないのか、なんて要らぬ心配なのだけどそれすらも愛おしく感じた。
 穏やかな寝息に誘われるように秀吾の意識も睡魔に絡め取られていく。程なくして、傍らの体温と一緒に眠りの世界へ沈み込んだ。




久しぶりに門瑞のえろです。あー楽しかった!!(爽やかな笑み)愛し合う二人って素敵。



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