豪巧の部屋

□五感で味わう豪巧(R18)
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↓↓頒布時、桜さん(@sakura_huwahuwa)に描いて頂いた表紙&裏表紙です!!素敵な豪巧ありがとうございました゜*。(*´Д`)。*°




甘いのはお好き?


 巧は甘いものが苦手だ。
 果物などの爽やかな甘味ならまだ良い。口の中ですぐに消えてしまうようなもの、例えば綿飴とか生クリームなどもまだ平気だ。
 しかし元来のさっぱりしたものを好む性格に起因するのか。口の中にべったりと纏わり付くようなものは、どうにも駄目だった。
 とりわけ、チョコレート。
 甘ったるい砂糖の味がいつまでも口の中に残っている気がしてしまって、気分が悪くなってくる。
……ということは知っているはずなのに。
毎年毎年、バレンタインになると律儀にチョコを買ってくる恋人には鬱陶しさを通り越して呆れしか感じない。
 貰ったものを放っておくこともできずに結局食べて、お返しまでしてしまう自分も自分なのだが。
 
 その日大学の授業を終えて、二人で同棲しているアパートに帰ってみると朝と変わっているところが一つ。嘆息が漏れる。キャンパス用の鞄を肩から下ろした。
「おい、豪」
「なんじゃ、巧」
「このパッケージ」
 仏頂面なのが自分でも分かった。ローテーブルの上に出ているピンク色の包装紙とリボンでラッピングされた箱を指差す。
「またチョコレートかよ」
「よく分かるな」
 とぼけた顔でソファに座る豪がにこりと笑う。
「今日が何の日だと思ってんだよ、毎年買ってくるくせに」
 ぶつぶつと呟き、豪の隣に腰掛けた。にらみつけてもチョコレートの箱が消えるわけでもない。
 大体、と言葉を続けた。
「バレンタインは女が男にチョコあげる日だろう。なんで豪がおれにくれる必要あるわけ」
「女性から男性にチョコ贈るって習慣あるの日本くらいらしいぞ。アメリカとか、男が女に花束贈ったりとか恋人同士で食事したりとかするらしいし」
「なら尚更チョコじゃなくても」
 巧が言いかけた言葉を遮るように、豪はテーブルの上の箱に手を伸ばした。
「まぁちょっと待てぇや。今回のはいつもと違うんじゃ」
「……?チョコはチョコだろ?」
 にっ、と笑みを浮かべて包みを解く豪。中身を取り出して、そのまま差し出されたチョコレートを巧は寄り目になって見つめる。
「食うてみぃって。ほれ、あーんするか?」
「ふざけんな」
 豪の手からひったくるようにして小さな茶色の塊を奪い取った。
「食えばいいんだろ、食えば」
 ぱくり、と。
 放り込んだ瞬間、口いっぱいに広がる甘ったるさを予想した。
しかし、その期待を裏切るように口の中でほどけたのはコクのある苦味。
 思わずぽかんと豪を見つめてしまった。
 そんな巧の反応を豪は楽しんでいるようだ。
「な?」
「うん……まぁ」
 確かに、これまでの甘いチョコレートとは違う。
「なんなんだ、これ」
 それまであまり気に留めていなかったチョコレートの外箱を取り上げ、しげしげと眺めた。箱の中に入っていた小紙片に商品説明が書いてある。

『本格濃厚ビター』

「これなら巧も食えるんじゃねぇかなって。やっぱバレンタインはバレンタインらしく過ごしたくて。チョコとか食ってさ。……嫌じゃったら、すまん」
 豪がちょっと笑って言った。自分もチョコレートに手を伸ばす。一口囓ってから、うわ、と顔をしかめた。
「苦ぇ。……こんなの、よぅ食えるな、巧」
「おれにはちょうど良いけど」
 口に残らない甘さ。後を引くことのない苦味が心地良かった。それでいて深みがあって、一言で言ってしまえばうまい。
 一口で諦めたのか、豪が食べかけのチョコレートを巧の口に押し込んできた。
 入れられたそれを蕩かし飲み下しながら考える。
 甘いものが苦手な自分でも食べられるように、とわざわざ買ってきてくれた。きっとあちこち探してくれたんだろうな、と思うと胸の奥がなんだかじんわりと温かい。
 黙ったままの巧に不安を覚えたのか、巧?、と豪が呼んでくる。
「その……毎年甘いもん食わせてすまんかった。嫌いって知っとったのに。このチョコ、気に入ったなら、来年からもこれ買って」
 最後まで聞かずに身を乗り出した。
 触れ合う唇。
 柔らかい感触。
 頭の後ろに手を回して引き寄せれば、口が開いて中へと受け入れられる。カカオの味が広がって、互いの口内で混ざり合った。手が置かれた背中から熱が放たれ駆け巡る。
「……甘いものが全部嫌いってわけじゃないから」
 ちょっと視線をそらしてそう言う。ため息が降ってきてくるんと視界が反転した。天井が目に映ったかと思えばすぐ真上に見える豪の顔。
 ほんまにおまえは、と聞いているこっちがくすぐったくなるような低くて甘い声がする。
「豪、なに……」
「恋人らしいことすんじゃ。いちいち訊くな」
 答えようとして言いかけた言葉は文字通り呑み込まれた。
 しつこいくらい繰り返されるキスを受け着衣をはだけられて、火照り始めた身体に意識を奪われる。服の下の素肌を弄る無遠慮な手にも嫌な感じはしない。
 唇の端に舌が押し付けられ、くすぐったさに首を横に倒した。
「おい、豪……」
「チョコが付いとった」
 首筋に這う舌はチョコレートのせいかいつもよりべたついていた。続いてねっとりと、ざらりとした感触に胸の尖りを舐め上げられて快感を煽られる。豪の肩口の服の生地を思わず握り締めて巧は熱い息を吐いた。
 あっという間に高みへ追い上げられ、訳が分からなくなり熱いものが身の内に埋め込まれる。少し味が薄くなった口づけに応えながら溶けた思考の隅で巧はやっぱり思った。

 甘いものは、好きだけど苦手だ。
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