豪巧の部屋

□ことこと、煮上がる
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ことこと、煮上がる




 もうじき師走のこの季節。盆地である地形のせいで新田の夏はうだるような暑さが訪れる一方で冬の冷え込みは特に厳しい。コートを着込んだ身体もあっという間に冷えてしまうようなそんな寒さの中、通りの自販機で買うコーンポタージュの缶は芯から身体を温めてくれる心強い味方だ。難点が一つるとすれば。


「くっそ、コーンが出てこんし」


 缶を逆さにして口元にぶつけること数えきれず、とうとう豪は諦めて嘆息する。飲み干した、否、残ったコーン以外は完食した缶の底が折り畳み式ちゃぶ台の天板とぶつかり空しく音を立てるのを、傍らに座っていた巧が横目で見つめていた。

「変なの」

 呟くから何がと問い返せば、巧は握っていたシャーペンを問題集の上に放りだして身体の後方に手を付いた。

 ちなみに2人は今、定期考査前の勉強中で巧の部屋にいる。学校や部活のときには人の目がどうしてもあるため、恋人同士2人きりのこうした空間というのは豪にとってかなり貴重だ。

「コーンが残るって最初から分かってるのに、なんで買うんだ?」

 至極もっともな質問に首をひねらずにはいられなかった。

「まぁ……美味いから、かな。あったまるし」

 ふぅん、と相槌を打って巧は自身のマグカップに手を伸ばす。ホットミルクがほこほこと湯気を立ち上らせていて温かそうだ。

「コーン、出してやろうか」

 いきなりの申し出に瞬きを数度繰り返した後、豪が「頼む」と黄色い缶を差し出せば、おもむろにホットミルクのマグを傾け慎重な手つきで缶の飲み口へ牛乳を注ぎ入れる巧。それから缶を回して中身をかき混ぜ始めたところでようやく合点がいって、あっと豪が声を上げたのも束の間、巧は自分で缶に口を付けると一気に呷ってしまう。

「え、たくみ――」

 巧が身を乗り出し豪の頬を両手で挟んだ。顔が寄せられる前に視界に映った切れ長の瞳は笑みで細められていたように見えた。続いて重なる湿った感触。不意打ちに身動きもできずにいると、器用な舌に唇を割られて口内へと流し込まれる生温い液体がある。甘さは多少薄まっていたけれど、それは確実にコーンポタージュの味で。反射的にゴクンと飲み込んだ後に残った固形物はコーンだろうか。ふやけた舌触りを舌の上で潰してから、我に返った。

「巧」

 何事もなかったかのような顔で巧が自分のマグをすする。ほんのりと上がる湯気の向こうで悪戯っぽい微笑みが浮かんだ。

「ご馳走様でした、豪」

 まだちょっとコーン残っちゃってるけど。

 缶の底を覗き込んで呑気に呟く恋人の姿に、豪の脳みそは煮上がった。








講義中に前に座ってた男子が飲んでるコンポタ(じっくりこと○とのやつ)の缶を見た瞬間に降ってきたネタ。書かずにはいられませんでした。20分勝負でいつにも増してあほいちゃ全開ですみません〜(^^;)

うちのたくちゃんはいつもこんなんだからね、豪もねあっという間に煮上がっちゃうね。お幸せに!

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