瑞受けの部屋

□Not for under 18.(R-18)
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 途切れることのない雨音が包む室内に響くのは、微かな衣擦れと控えめな水音。熱い吐息を零しつつ、目の前の身体を徐々に暴いていった。
 ぐちゅり。
 ゴムを装着した自身を入り口に宛がって食ませれば、多すぎるくらい出したローションの粘液が溢れていて空気と混ざり水音がした。瑞垣が小さく呻いて身じろぎ、ベッドが軋む。
「狼に、食われるご感想は」
 十分過ぎるほどに時間をかけて焦らして解したそこは柔らかく引き締まっている。
「狼より、雑種犬とかのが、似合いやな」
 ゆっくりゆっくり貫かれながらも、うっすらと笑みを浮かべてみせるのは流石の根性だ。そんな余裕も引き剥がしてやりたくて、海音寺は浅いところから深いところまで確実に抉っていく。根元まで埋めて奥を突けば、それだけで複雑な蠕動を見せる中がたまらなく気持ちがいい。
 快感の上に更に快感を塗り重ねられた瑞垣がのけ反り赤いずきんの上で身を捩った。
「う、わ、中やばいぞ瑞垣」
「そーゆーの言うなあほ……っ!」
「マジ、えろい」
 絶対に、子供になんか見せられない淫らな赤ずきん。白い肌と赤のコントラストがなんとも言えず、少し身を屈めて口づける。汗の匂いに混じって、ふと脳裏を掠める記憶があった。
 軽やかにグラウンドを駆けていた赤いユニフォームの六の数字。昔から赤の似合うこいつが眩しくて、魅入っていた。思えばあの頃から好きだったのかもしれない。
 それが今、同じ赤の上で素肌を晒して自分に組み敷かれている。目元は赤く滲んで、半開きの口でせわしなく呼吸して。最高の眺めだった。
 海音寺は唇を舐めた。塩辛い。
「な、瑞垣」
 瑞垣のここ、きゅうきゅうしてる。
 屈み込んで、耳元にとびきり低い声を吹き込んでやる。互いが繋がっているところをなぞってみれば分かりやすく瑞垣の身体が震えて息を呑んだ。
「んっ……あっ、あ!ばか、やめ……ああっ!」
「あんま声出すと、隣に聞こえるで」
 片手は前を扱いて擦り上げ、空いた方の手と唇で愛撫を加えていく。感じるところは知っている。敏感な脇腹を撫で上げ胸元の突起を摘まんでやって、顎のラインを耳まで辿り尖らせた舌先をねじ込んで。
 切羽詰まったような喘ぎ声が海音寺の鼓膜を揺らす。中からだけでなく外からも与えられる快感に翻弄され、どろどろに瞳が溶けていくのが見えた。
「こんなに咥えこんで、やらしい赤ずきんじゃな」
 それこそ安っぽいAVみたいな台詞を吐いてしまう自分は行為のせいで頭が沸いていたのだと思う。でも、言葉の一つ一つにいちいち反応を返してくる瑞垣が淫らで卑猥で愛おしくて、思考がぐちゃぐちゃになる。
 伸びてきた腕が首から肩に掛けて絡みついてきて引き寄せられた。物理的に詰まった海音寺の呼吸を瑞垣が埋めるかのように、開いた口から零れた吐息でこめかみが湿った。
「おおかみさのせーし、ちょうだい?」
 甘えるように掠れた声。
 ぶわ、と身体に熱が回る。両脚を抱え上げて一気に突き込んで、溺れたその後のことは色々飛んだ。

 ピ、と電子音に続いてごぉと吹きだす冷風。帰ってからエアコンも付けずに盛ってしまったせいで、締め切った室内は熱気と汗と事後の微妙な臭いが充満していた。
「まだまだ若いんやなぁおれらって、思った」
 ちゃっかり海音寺の部屋着を借りて冷蔵庫の中身を物色しながら、気怠げな口調で瑞垣が言った。はあぁ、と我ながら情けない嘆息を漏らして海音寺はベッドに腰掛け顔を覆う。
「おれは、なんか黒歴史を作ってしまったような気がする……」
 元凶になった赤ずきんのコスチュームは、汗やらナニやらで汚れて使い物にならなそうだし今後使い物にする予定もなかったのでビニール袋に厳重に封をしてゴミ箱へ捨てた。熱に浮かされてのあれやこれ。できることなら記憶に蓋をして、コスチュームみたいにゴミ箱へポイしてなかったことにしてしまいたい。あれか。これは俗に言う賢者タイムか。
 さすがに暗くなって先程つけた白々しい蛍光灯の明かりの下、項垂れる海音寺を余所に瑞垣が舌を打つのが聞こえた。
「なんや、ビール置いてねぇんかよ」
「水出しの麦茶ならある」
「麦は麦でもぼくが飲みたかったのは炭酸麦ジュースです」
「オヤジ臭い」
 プラスチックのボトルから直接飲もうとするものだから、ちょっと待て、と流しからグラスを洗って慌てて渡してやる。冷蔵庫にもたれて座る瑞垣の隣に、海音寺もずるずると腰を下ろした。
「人んちだと思うとやりたい放題だよな、瑞垣って」
「自分ちも同然、とか言うたら許してくれる?」
 ぬけぬけとのたまいグラスを傾け晒される白い喉を、見つめた。襟付きのシャツでも着ないと隠せそうにない紅い斑点が一つ二つ。まだ眼鏡を掛けていないぼやけた視界でも認識できるそれが、麦茶を飲んで上下する出っ張った喉仏の動きに合わせて揺れる。
 不意に身を乗り出してきた瑞垣の冷たくなった唇が触れた。少し温くなってはいたけれど十分に冷たい麦の風味が流し込まれ、舌先が舌先をちろりと舐めたかと思えばすぐに引かれて離れていく。
「一希ちゃん、ちょろすぎ」
 喉を滑り落ちていく冷たさとは裏腹に、かっと頬が熱くなった気がした。あとさ、と駄目出しは続く。
「もうちょっとボキャブラリー勉強した方が、良くない?AVの台詞丸パクりの言葉責めってのもなんかなぁ」
「……『おおかみさんのせーし』がよく言うわ」
 言ってから後悔した。素面の時に口にする単語じゃない。二杯目の麦茶を注ぎながら瑞垣が喉の奥で笑う。
 静かになった部屋の中に、遠くから近づいてくる音があった。
 二人して窓の外へと首を回して耳を澄ませる。海音寺は身体を起こすと窓を開けてベランダへと出た。
 いつの間にかバケツをひっくり返したような大雨は止んでいた。日も落ちて暗くなり、吸い込んだ空気は湿っぽく土の匂いがする。生まれ育った郷里と違ってアスファルトにどこもかしこも固められたこんな都会でも、こんな日の肌の感覚は違わないんだなとふと思ったところで、賑やかな明かりが視界を掠めた。
「神輿か」
 背後から顔を出していた瑞垣が呟いた。
 向かいの建物の影に隠れてすぐに見えなくなってしまったけれど、一本先の大通りで神輿の巡行が始まったらしい。笛と太鼓の規則的な拍子に合わせて掛け声が揃った。提灯の提げられた道を練り歩く様は綺麗なんだろうと思う。
「炭酸麦ジュース」
 言って、振り返る。
「焼き鳥の屋台もたぶんあるで」
「おごり?」
「割り勘」
「ケチ」
 するりと伸ばされた指先が重なり、くすぐった手のひらに軽い感触を残して引っ込んだ。先に戻った瑞垣が自分の服に着替えている間に、置きっぱなしになっていた麦茶のボトルを片付ける。
 予定外の雨には降られたけれど、これで当初の計画通りにはなりそうだ。不思議と童心に帰った気分で高揚感が身を包んでいた。身支度を整える瑞垣を急かして財布を尻ポケットに突っ込んで、エアコンを切って、部屋の電気を消す。最後に鍵を掛ければ今度はこちらが早くしろと腕を引かれてどうやら待てない性格は同じらしい。思わず顔を見合わせて笑い、揃って夏の夜が待つ賑わいへと足を踏み出した。







ショートズ月間に間に合わなかったのが心残りですが……!募集した要素を元に書かせて頂きました。
童話・言葉責め・夏の夜・にわか雨と素敵なお題をくださった皆様ありがとうございました(*´ω`*)


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