青エク/治癒姫
□始まりの場所へ
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意識が朦朧としている中、とても甘い花の香りが肺を満たし蜜の味が喉を通った
身体中に何かが満たされる感覚、そして脳が痺れるような感じがして体が軽くなる
『あ、まい…』
「目が覚めましたか?」
声が聞こえ、頬を撫でられる
その手に擦り寄れば、花の香りがした
「人間は弱い
なのに彩乃は無茶をする
ボクには理解出来ません」
ぼんやりとした視界に白い肌と緑の髪が見えた
なんでここにと言いたかったが、口を開くと飴を口に入れられてしまい、喋ることが出来なかった
「彩乃は人間のくせに悪魔を守ろうとする
そして人間が嫌いなくせに人間を守ろうとするのですね…」
ドクン…
彼の言葉に胸が高鳴った
「兄上やボクは悪魔ですから大丈夫なようですが、兄上が気に入っている藤本獅郎にも初めは嫌悪感丸出しでしたね」
そんな前から気付かれていたんだ…
ぼんやりとそう思いながら彩乃は飴をカラコロと口の中で転がした
「兄上に会いにくる祓魔師を極端に避けていましたし、買い物に行った時も避けていました
だから彩乃は人間が嫌いなんだと思いましたが、違ってますか?」
『…あってまひゅ』
飴が邪魔でハッキリ喋れなかったが、通じたのだろう目を細める彼は彩乃から飴を取り上げて自分で食べる
『…アマイモンさん、ごめんなさい』
ガリガリと噛み砕き、すぐに棒だけになったものを口から出した彼、アマイモンは彩乃に目を向けた
『物凄く身勝手で失礼な事をアマイモンさんにも、メフィストさんにもしてしまった…
怒られて当然です』
「…嫌ってるはずの人間を守るためにルシフェル兄上と契約したのでしょう?
教えて下さい、なぜですか?」
漫画で知っているキャラであっても、実際会えば他の人間と変わりなく
蔑まれて生きてきたせいで人が恐ろしく
結局漫画のキャラも恐ろしいと、所詮他と変わらない同じ人間だと思った
だけど…
『藤本獅郎は人間で初めて…
バケモノのわたしを受け入れてくれた
そして彼の息子達の親を見殺しにしたくなかったから…』
母を見殺しにしてしまったわたし
せめて…
そんなわたしでもせめて彼らの親を救えたらと思ったんだ
『そしてルシフェルさんに頼んだあの二人は…
神木玉雲は子供のために親として自ら死を選べる母親だから
もう一人は大切な存在が身近に居るのに気付かず孤独になってしまうから』
「…やはりボクには分かりません」
『そうですね
わたし自身、分かりません
ただ己の罪の意識を軽くしたいためか、自分が親に出来なかったことやしてやれなかったことを彼らに求めているのか…』
見殺しにしてしまった母への親孝行の変わりに助けたいのか
自分が出来なかった親孝行をあの双子や神木出雲にして欲しいのか
『こんなバケモノでも…
誰かを助けたい、役に立ちたい
そう思っているのかもしれません』
「自分の事なのに分からないのですか?」
『そうですね
分からないです』
分からないのに、危険を犯す彩乃は理解不能で
だけど放っておけなくて
だから優しいボクは許してあげることにした
「許してあげます
ボクは優しい王サマですから
でもその代わりに、ボクと契約する時の条件を新たに決め直します
それを全部受け入れると約束して下さい」
『…無理難題吹っ掛けるつもりですか?』
「ハイ、でもそれで全部許します」
どんな難題を吹っ掛けられるか
でもそれで許してもらえる
恐ろしいと思うと同時に、嬉しくなる彩乃
嬉しくて涙がこぼれ落ちた
2017/05/17
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