青エク/治癒姫

□悪魔らしい
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灯りが消された部屋はシンと静まり返り、その静寂の中で彩乃は身を守る様に体を丸めて眠っていた
だがその平穏をぶち破って踏み潰す様に眩い光と共にルシフェルが現れた
眠ったままの彩乃にルシフェルは静かに近付いていく

ギッ…


「彩乃…」


ベッドに腰掛け、眠る彩乃の髪に手を滑らせた
だがふと感じる己の弟達の魔力が、彼女の体から感じられる事に眉をしかめる


「彩乃…
あなたは私を救ってくださった」


血の気の引いた白い頬に指を滑らせ、ルシフェルは触れた所から己の魔力を注ぎ込む

弟達の魔力に上書きされていく己の魔力
まるで自分のものだと主張する様な行いだった


「彩乃…
あなたは他の人間と違う
目の色や治癒能力だけではない何かがある
私はそれを知りたいのです」


長い前髪を梳いて、ルシフェルは彩乃に覆い被さる
そして彩乃の額に己の額をくっ付けた

彩乃の記憶を探ろうとしているのだ
この力は魔神を除けば超上級悪魔の中でもルシフェル、サマエル、アザゼルしか出来ない事で、それぞれ特徴はあれど容易に触れられぬ場所に入り込む事が出来る
ルシフェルの場合はその者の精神世界に入り込む

ルシフェルはゆっくりと薄い水色の目を閉じた
次の瞬間、彩乃の精神世界へと降り立ったルシフェルは言葉を失った

美しい蝶とシャボン玉が飛び交い
様々な草花が美しく咲き誇り
底まで見えるほど美しく澄んだ湖が常夜の世界に浮かぶ月の光をキラキラと反射していた

まさに完成された幻想世界
それが彩乃の精神世界だった


「…ここまで完成された美しい精神世界は初めてですね」


ルシフェルは人の精神世界(心の内)を覗くのが好きだった
人の変化や人が作った物が好きなサマエルや、人と人との情が好きなアザゼルとは趣味が合わず、分かち合う事は出来ないでいたルシフェルだったが、幼い頃から形成され作られていく人間の精神世界が好きだった

その人間の経験してきたもので創られ、その人間の深層心理を映し出す精神世界は人それぞれ違って面白いものだ
それは人間があまり好きではないルシフェルが数少ない人間の好ましい部分だった
数々の人間の精神世界を見て来たルシフェルは、どんな人間でも歪で歪んだ世界を持っているものだと思っている
それこそ赤ん坊や幼児でなければ純粋で美しい世界が創り出せない

だが彩乃の世界は違った


「なんと美しいのだろう…」


そうこぼしたルシフェルだったが、それはルシフェルの思い違いであった事に気付く
ルシフェルは透き通る湖の底にあるものに気付いたからだ

それは夥しい数の死体だった


「これは…彩乃?」


年齢は様々ではあったが、湖の底に沈む死体は全て彩乃だった

異様な光景だ
美しい世界にある湖の底に数多の死体が沈んでいる

ルシフェルはますます彩乃に興味を抱いた


「記憶はどこでしょうか…」


精神世界にあるその世界の王の生きてきた時間
ルシフェルはそれを探し求め、歩き出す

精神世界は広く見える様でいて物凄く狭いものだ
それは彩乃も例外では無く、ルシフェルは見つけた
彩乃の記憶を

湖の中央に聳え立つ氷と花で出来た塔に隠されたそれにルシフェルは手を伸ばして触れる







2017/05/11

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