青エク/治癒姫

□愚かな人間
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「アマイモンに契約しようと誘われたそうですね」


休憩ついでにお茶をするメフィストに茶菓子を作った彩乃は、テーブルにクッキーを置くと同時にニヤニヤと心底愉しそうに笑う彼にそう投げかけられる
ちなみにアマイモンはメフィストのお使いで既に虚無界へ行ったそうだ


『…はい
でもわたしなんかがハ候王と契約するのは畏れ多いですし、まだ入塾すらしていない無知なわたしが勝手に契約して良いものかと考えている所です』

「貴女は頭が良いですね
早急に契約しないのは正解ですよ
でもアマイモンと契約すれば藤本を守りやすくなるんじゃないですか?」


彩乃はメフィストへ彼がどうやって死ぬか言っていない
燐を庇って死ぬと言ったのを聞いていたかもしれないが、それでも具体的には口にしていない

彩乃にとってアマイモンと契約しても獅郎を守ることは出来ない
なぜなら、獅郎を死に追いやったのは魔神だからだ
いくらハ候王といえども創造主たる魔神には敵わない上にまず歯向かう事もないだろう

だからアマイモンとの契約は獅郎の助けにはならないし、それはどの悪魔でもそうだ
それでも悪魔の契約を視野に入れていたのは、仮に獅郎が死んでしまった時の事を考えてだ

彼の肉体は死んでも、魂さえ無事なら別の形でも生き長らえさせる事が出来るかもしれない
そんな希望的観測から悪魔の契約を視野に入れていた
実際確証はないことなのだが、元々選べる手段が少ないのだ
手当たり次第試したい

そういった点でもアマイモンとの契約を考えあぐねていた彩乃
もし希望的観測が実現出来るなら下手に他の悪魔と契約をするわけにはいかないからだ


『…いえ、全く役に立たないという訳ではないのですが、わたしがしようとしていることには彼の能力は向かないので
役不足という訳ではないのですが、根本的な問題
畑違いなんですよ
彼には出来ないことをわたしはしたいんです』

「ホー、それはそれは…
とても気になりますね」


彩乃が教える気がないのを分かっているのか無理に聞こうとしないメフィストに感謝しながら彩乃は理事長室を後にする

そんな彩乃の背中を見送りつつ、メフィストは目を細めて顔をしかめた
なぜなら、彩乃の体からアマイモンの魔力が発せられていたからだ

彩乃が目覚める頃には既に虚無界に行っていたアマイモンの魔力がそんなに色濃く残るわけがない
ましてや彩乃自身が発するわけがない

ではなぜ?
メフィストには心当たりがあった

彩乃にキスをして魔力を分け与え、喰われた時に彩乃の体からメフィストの魔力が発せられていた
朝になる頃には無くなっていたが、あの時の彩乃は弱っていた
メフィストの魔力を消費して自分が回復したのなら説明がつく

恐らく彩乃は昨日、アマイモンの魔力を喰った
しかもあの濃度なら軽い接触程度のものではなく
そういえば与える事に専念していたが、彼女の舌が甘美な味がしてメフィスト自身も彼女を味わったことを思い出す
アマイモンもその味を占めて貪ったのだろう
同時に自分が喰われているとも知らず…

昨日今日は彩乃も治癒能力を使っていないようなので、アマイモンの魔力が消費されることなくより濃厚に彩乃の体に残っているようだ

昨日は分からず今日気付いたのはアマイモンの存在の有無の違いだろう
アマイモンが居た時はアマイモンが彩乃にくっ付き回っていた為に不思議に思わなかった


「あのアマイモンがな…」


元から彩乃の匂いに惹かれていたのは知っている
だが契約を持ちかけ、キスまでするとはメフィストも思っていなかった
意外と思いつつも自分も言える立場ではない事を思い出す
彼女に与える量の方が遥かに多かったが、彼女の唾液に魅了された上に自身も回復させられていた

悪魔を癒しつつも悪魔を喰らう
なんと面白い人間なのだろうと愉悦を覚えた


「悪魔を魅了して喰らう治癒姫…といった所か」


彩乃が作ったクッキーを手に取ったメフィスト
いつも購入する高級菓子店のクッキーよりも美味しいそのクッキーに感動しつつもクッキーに混じったアマイモンの魔力に苛立ちを覚える

喰らった魔力は消化しない分は垂れ流しているのだろうか
まだまだ分からない事が多い彼女とは少しの間二人きりだ
色々試させて貰おうと思いつつ、メフィストはもう一つクッキーを手に取ったのだった







2017/05/09

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