青エク/治癒姫

□地の王の誘惑
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彩乃はアマイモンのご機嫌取りにお菓子を作りながら考えていた

トリップしてから色々変わった事はあるが、治療後に寝込む事がなくなったのは大きい
これなら思っていたよりも出来る事の選択肢が増える
藤本獅郎も救えるかもしれない

そう予感して彩乃は上機嫌になっていた


「彩乃、何か楽しいことでもありましたか?」

『アマイモンさん
そうですね、前よりも出来ることが増えてお友達も出来ました
わたしを信じてくれる人も居て、助けられないと思っていた人も助けられるかもしれないという可能性も見つかって…』

「…」

『わたし、今とっても幸せです』


ガリッ…

思わず爪を噛んでしまうアマイモン

おかしい
彩乃が楽しそうなのはイイコトなのに、ムカムカしてイライラする
彩乃の言葉が胸を締め付ける
誰かを思って嬉しそうに笑っている事が許せない
いつもは心地良いその声が耳触りだ


『…アマイモンさん?』


アマイモンの異変に気付いた彩乃はお菓子を作る手を止めてアマイモンの顔を覗き込む
近付いた距離のせいでより濃厚な匂いがアマイモンを刺激する

壊したい
食べたい
…少しだけなら


「彩乃…」

『アマイモンさ…っ』


伸ばされた手が彩乃の後頭部と腰を捉え、引き寄せられる
花やお菓子の甘い匂いと共にふわりとした柔らかい感触が唇に
それと同時に視界がぼやけそうになる程近付いたアマイモンの顔に彩乃は目を見開いた
油断していた彩乃の咥内にアマイモンの長い舌が入り込む


『っんん…』


彩乃の舌を捉え、ジュルッと吸い付くアマイモン
口内を嬲り、舌を蹂躙し尽くしたアマイモンが満足して離れるのに5分程掛かった
アマイモンが彩乃の唇を解放する頃には彩乃は息を荒げ、息苦しさに目を潤ませて頬を染めていた


『あ、あまっ、あまい…も…さ…』

「ハイ」

『な、なに…を…』

「物凄く不愉快になったので黙らせました
でも彩乃の口は甘くて美味しかったです
もっと欲しいです」


抵抗しても勿論彩乃がアマイモンに敵うわけもなく、むしろ抵抗した腹いせのように唇を噛まれてしまう

滲み出る血を吸うアマイモン
血の味がする舌を絡められ、随分と物騒で血生臭いキスを強いられる
甘い甘いと言うアマイモンに段々彩乃も抵抗する気が失せ、アマイモンのしたいようにさせる
確かに恥ずかしいのだが、こっちがキスだと意識しててもアマイモン自身はお菓子を食べている感覚に近いような気がして、どうせ敵わないし気にするだけ無駄だと彩乃は諦めた

そろそろ舌も唇も痺れてきた頃、ようやく離れたアマイモンは彩乃に空腹を訴えた


「お菓子が食べたいです」

『…少し待ってて下さい
これをオーブンに入れたらすぐに食べれるようにパンケーキ焼きますから』

「ワーイ」


痺れを覚える唇と舌を気にしながら彩乃は置いていたボールを手に取った

ファーストキスだなんだと騒ぐような性格ではないが、初めてのキスがこんな血みどろとは誰も予想しなかっただろう
少し遠い目をしながらも手は動かし続ける彩乃は手早く型に生地を流し込んでオーブンに入れ、元々作っていたパンケーキの生地を焼き始めた


「彩乃
ボクは兄上なら別に良いんですが、あの藤本獅郎という男のために彩乃が無理をするのは嫌です」


アマイモンの言葉に一瞬固まってしまう彩乃だったが、そんな彩乃を気にかける事もなくアマイモンは続けた


「彩乃は頑張り屋さんですが、人間は弱い
すぐに壊れてしまう
藤本獅郎のせいで彩乃が壊れたらボク、ムカついて藤本獅郎を殺します」


彩乃を後ろから抱きしめ、パンケーキが焼けるのを後ろから眺めながら呟くアマイモン
彼の花や植物の香りとパンケーキの香りに包まれながら彩乃はゆらりと瞳を揺らした


『…それは嫌ですね』

「…なぜですか?」


小さく呟いた彩乃にアマイモンの腕に力が籠る
だが彩乃は焼けたパンケーキを皿に移しながら続けた


『アマイモンさんも藤本さんもわたしにとってとても大切な人です
大切な人同士が傷付け合うのはとても悲しいです』

「…」


アマイモンにはよく分からない感覚だったが、彩乃が悲しむのは嫌だと思った

買い物に行った時に顔を見せてもらった
あの時に自分の目の色を嫌いだと言っていた彩乃はとても悲しそうで
なぜだかアマイモンはそんな表情をする彩乃に酷く胸がざわついたのを覚えている


『確かに人間は脆く弱い
でもそれと同時に強くもあります
だから大丈夫ですよ』


大丈夫、大丈夫と幼子に言い聞かせるように
自分に言い聞かせるように
穏やかな声色で言い続ける彩乃にアマイモンはようやく腕の力を抜いた


「…何かあればボクが助けます
邪魔するものはブッ殺します」

『頼もしいですね
ありがとうございますアマイモンさん』







2017/05/08

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