青エク/治癒姫

□買い物
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出て行った少女、彩乃を見送ったメフィストとアマイモンはお互い顔を見合わせる


「兄上
あのニンゲンをどうするおつもりなんですか?」

「あの“匂い”がある以上は迂闊に外に出さない方が良いだろう
私たちだけが惹かれるとは限らない」


彩乃が目覚めてからより強くなった甘い匂い
まだ部屋に残るその匂いにくらくらと揺れる頭を押さえながらメフィストは窓を開けて換気する


「そう仰る割には一人で買い物に行かせるんですね」

「ここには私の結界がある
それに…少し気になることもあるしな」


メフィストは彩乃が歩いているのを見つけ、そのまま窓のふちに肘をついた


「記憶喪失は嘘だろう
だが魔障を知らないようだった
アマハラに居た経緯もな
それにしてもお前はあの“匂い”が平気なのか?」


一見して変化の無いアマイモンにメフィストは怪訝そうな表情で尋ねるが、アマイモンは首を横に振った


「すごく…美味しそうでした
それと同時にすごく安心して、何かが満たされるような感じがありました」


食べたい
味わいたい
でも壊したくない
あの“匂い”でもっと満たしたい

そんな欲求が埋め尽くす中で、確かに安心感と満足感を感じていた
だがそれと同時にこの安心感と満足感を失ってしまったらという不安感を覚えた

彩乃が部屋を出て行ったと同時にそれは強まり、その不安から僅かに地面を揺らしてしまうアマイモンにメフィストは咎めつつも同意する


「地面を揺らすな
あの“匂い”を少し調べるべきなのは確かだ
この私でさえ…惑わされる
あの“匂い”は危険だろう」

「…兄上、あのニンゲンが離れると胸がざわついて落ち着きません
ボクもアレに付いて行ってはいけませんか?」


地面を揺らすのは止めたアマイモンがメフィストに尋ねた
メフィストは深く溜め息を吐き、けれども止める事はせずについでに食事をして来いと言った
嬉々としてすぐに飛び出して行く弟を見送りながら、メフィストは一人になった理事長室に残る甘い匂いに目を閉じた


「…この私が」


何千年と生き、何百年と人間と過ごしたこの私をいとも容易く揺るがす少女
だがあの“匂い”をもっと堪能したい

もっと近くで
触れて
愛でて

あの華奢な体を貪り尽くしたらどんなに満たされる事だろう
美しい髪に隠された顔を見てみたい
黒のワンピースに隠された体を見てみたい
あの白い肌に触れて、舐めて、噛んで味わってみたい

名前を呼んで欲しい
あのか細くとも澄んだ声を甘い嬌声に変えてみたい


「あぁ…
人間の少女の“匂い”にここまで掻き乱されるだなんて…」


紳士であるまじき欲が次から次へと湧き上がる
本当になんて少女なんだ


「…私も行けばよかった」


一人になり、換気した事で掻き消されていく“匂い”に不安感と寂しさを覚えた
自分を乱されるのが不愉快で“匂い”を消したかったメフィストだったが、その“匂い”が薄まっていくと逆に不安を覚えた

すぐさま窓を閉めるが、ほとんど“匂い”は残っていない
その事に今度は“匂い”がなくて頭が掻き乱されたメフィストはふと彼女が眠っていたソファーが目に入る
そのソファーに移動すれば彼女の“匂い”がまだ残っていた


「あぁ…
これはマズいですね」


ほんの少しの融解の筈だった
だが思いの外に自分が彼女に心奪われている

“匂い”に惹かれただけなのか?
“匂い”だけでここまで心を揺さぶられるのか?

彼女は一体何者なんだ…







2017/04/27

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