殺生丸夢

□第五話
1ページ/2ページ





時折、邪見の持つ人頭杖で位置を確認しながら殺生丸の後をついて行くだけの旅
正確には殺生丸の父の墓を探す旅なのだが、桃花にはあまり関心がなかった
ただ己の主について行くのみ

ただひたすら殺生丸について行く旅はやがて桃花にとってゆっくりと考える時間になった

なぜ羽衣狐に成り代わった訳
なぜ元の世界に戻れなかったのか
どうしてこの世界に来たのか
この身に受けた訳でもない祢々切丸の傷がなぜ人間である私に残っているのか
時折羽衣狐の妖気と匂いがするのはなぜか
どうすれば元の世界へ戻れるか

答えはでなくとも考えずには居られない…
尽きぬ疑問をゆっくり紐解こうと思考を巡らしていた桃花はふと何かが近付いてくる気配を感じて足を止めた

すぐ後ろを歩いていた邪見が桃花にぶつかってしまい怒るが彼女はどこかを見つめて話を聞いている様子はなかった
そんな桃花に殺生丸も足を止めた


「どうした?」
「何かが…近付いてくる」


桃花の言葉に殺生丸も神経を尖らせれば、風に乗って妖怪の匂いを感じた
風によってようやく匂いが届く距離を人間である桃花は殺生丸より先に察知した
その事に殺生丸は疑問に思い、遠くを見つめる桃花を横目に伺う

だがかなりの速度で近付いてきた妖怪に殺生丸は先に妖怪を片付けようと手をコキッと鳴らす

飛び出してきたのは蛇のような妖怪だった
殺生丸はすぐさまその妖怪を爪で引き裂いた
だがその妖怪はみるみる内に傷が癒え、また殺生丸へと襲い掛かる


「なんじゃあの妖怪…殺生丸様の毒爪が効かぬのか!?」


驚愕する邪見を横目に、桃花は妖怪の額に光る何かに気付く

あれは…何かのかけら?
不思議な感じがする
もしかしてあれのお陰であの妖怪は…


「殺生丸様!
その妖怪の額に何か光るものがあります!!」


桃花の言葉に殺生丸は眉をひそめる
だが言葉通りに額を爪で引き裂けば薄桃色の欠片が飛び出した
それと同時に妖怪は地に伏したのだった


「これは…」
「もしや四魂の玉のかけらではないか?
最近四魂の玉が砕けたと噂を聞いた」


桃花が欠片を拾い上げたと同時に白骨化して塵となった妖怪
それらを見て四魂の玉の力だと言い放つ邪見に桃花は興味を示す


「四魂の玉?」
「人や妖怪に強い力を与え、どんな願いも叶えると言われとる
さっきの妖怪もかけらの力を得て妖力と治癒能力を上げておったのじゃろう」


この世界には犬の牙で出来ているのに強大な力を宿す刀だけでなく、不思議な力を持つ玉まであるのか…
手の中にある小さな欠片にそんな力があるのかと見つめていると邪見が遠巻きにしながら訝しげに尋ねてくる


「それにしてもお主…巫女だったのか?」
「え?」
「惚けるでない
四魂のかけらを浄化したじゃないか!!」
「そんなこと出来ませんよ
それにかけらも何か変わった様子もありませんけど…」
「すっとぼけるのもいい加減にしろ!
邪気が完全に祓われておるではないかっ!!」


邪見の言葉に欠片を見てみるも妖怪の体内にある時とそんな違いがある様に思えなかった
静観していた殺生丸も欠片が浄化されたのは気付いていたが、桃花から霊力を感じないことを訝しんでいた
本来、どんなに弱い巫女や法師であれども霊力を感じるはずだ
だが桃花からは毛の先程の霊力を感じなかった
四魂のかけらを浄化出来たなら霊力を感じないはずがないのだが…


「殺生丸様、これ必要ですか?」


そう言って浄化されて清められた欠片を差し出す桃花
それは殺生丸程の妖怪であれば問題はないが、そこらの雑魚妖怪が触れれば浄化されてしまう程の清らかさを持っていた


「いらぬ」


元より必要とはしていないものだが、清め切った欠片など更に必要ない
だが浄化した事にも気付いていない桃花は殺生丸のぶった斬るような拒否に気にした様子もなく、そうですかと返す


「殺生丸様がそんなものを必要とされる訳がないだろう!!」
「まぁ…そうでしょうね」
「と、当然じゃろ」


予想していたといった口振りの桃花に口ごもる邪見は欠片をどうするのかと尋ねる


「そんな力を持つものを適当にほっぽって捨てていくのもどうかと…
持っていても構いませんか?」


四魂のかけらに誘われて妖怪が寄ってくる
だがそれは桃花自身も妖怪を引き寄せるので大した違いはない
むしろあれ程までに強力に清め切った欠片を桃花自身が持っていれば、妖怪への牽制にもなるかもしれない
そこらの雑魚妖怪であれば浄化されて消し飛ばされかねないのだから


「好きにしろ」


桃花が傷付くのは気に入らない
ならば身を守る術を持っていた方がいい
そう判断した殺生丸はそう言ってまた歩き出した
殺生丸の許可が降りた桃花は欠片をそっと胸に抱くとずくりと祢々切丸に貫かれた傷が疼いた気がした
その感覚に首を傾げながら先を行く殺生丸を追い掛ける
四魂のかけらが淡く光ったことに気づかないまま…




2019/08/21

次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ