殺生丸夢

□第三話
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何かを目指し旅をする新たな主人、殺生丸
彼について行く桃花と邪見だったが、休憩と言い放って立ち止まる殺生丸に二人の足も止まる
木の根に腰掛ける邪見を横目に、殺生丸は桃花に向き直る


「お前はついて来い」
「私…ですか?」


既に歩き出した殺生丸に邪見がお待たせするでないと一括された桃花は慌てて後を追う
先に歩く殺生丸に追い付いてついて行くと、綺麗な泉があった


「包みの中身は全て見たのか?」
「い、いえ…まだ全ては…」


ジッと見つめてくる殺生丸に桃花は慌てて持っていた包みを開く

櫛と手拭いは見たけど、この青のやつはなんだろう…

青色の生地の何かを取り出してみるとそれは着物だった
濃淡のある青色の生地に水色と赤色の蝶の模様がある着物と、帯替わりだろう紫色の腰紐があった


「一刻程で戻れ」


そう言って戻っていく殺生丸に桃花は驚いた表情で見つめていた

これはおそらく着替えなのだろう…
昨日の水浴びを見られたし、夜に水浴びしないようにわざわざ泉まで…
何も無しに水浴びしてたからか、手拭いも何枚か入ってる


「殺生丸様…」


まさかここまで良くして下さるなんて…
奴良リクオのような、とても優しい妖怪なのね

上機嫌に水浴びする桃花
手拭いでしっかり汚れを落とすことが出来るので昨日よりもサッパリした桃花だったが、ふとある事に気付いた


「…私、そんな臭いの?」


わざわざ手拭いと着替えまで用意された…
昨日の水浴びでは足りないぐらいそんなに臭いの!?

女としてそれは嫌だと桃花は念入りに手拭いで身体を擦る
一刻…現代で言う30分ギリギリになってしまうぐらいに丹念に汚れを落とした桃花は殺生丸にお礼を言うと共に恐る恐る尋ねた


「あの…もう臭くないですよね?」
「…何を言っている」


その時の殺生丸様の表情は一生忘れられないと思います…


「殺生丸様の御心遣いをなんと…
無礼な奴め」
「だって、邪見さんもビックリしてましたし…
長年仕える邪見さんが驚くぐらい意外な行動だったんですよね?」


日が沈み、殺生丸がどこかへ行ったのを待つ二人は食料調達しながら昼間の事を話していた
あの後、微妙な表情をした殺生丸はそのまま無言で歩き出したので有耶無耶になったのだが、邪見はずっと桃花に怒っていた


「それはそうだが…」
「邪見さんは臭くないですか?」
「人間臭くてかなわん!!
じゃがまぁ、人間の匂いなだけでそれ以外は特に…
とは言ったものの、化け犬の妖怪であらせられる殺生丸様の嗅覚がどう捉えているかまでは分からぬがな」


妖怪というだけで人間の数倍は五感が発達している
そして殺生丸様は化け犬妖怪、つまり犬の嗅覚を持っているのだ
ならば人間の数百倍は嗅覚が鋭いはずだ


「じゃが人間はそんなに行水せんのじゃろう?
普段ですら三日に一度、今の様な寒い時期ならもっと間隔を開けるのではなかったか?」
「…私が住む地域では毎日入っていたのでその習慣が身に付いているんですよ」


ましてやずっと歩き通しなのだ
汗や汚れで臭いと言われても仕方ない


「殺生丸様が不快でないように、そしてお傍に従えても恥ずかしくないよう身嗜みを整えるのは従者として当然の心構えじゃ
じゃからその…そこはまぁ他の人間よりは良い心掛けじゃの」


ふんふんと上から目線ではあるが認めてくれた邪見に桃花は少し恥ずかしくも嬉しそうに笑う

特異な状況であれど一度は忠誠を誓った身
ましてや妖怪から助けられた
その恩返しとして従うのは当然だし、それぐらいしか出来ないのだから精一杯お役に立ちたい
でもどうすればいいか分からないから今はせめて彼の不快にならない様に、邪魔にならないように頑張らなくちゃいけない…


「ほれ、手が止まっておるぞ
それも食べられるのじゃからしっかり集めるんじゃ!」
「はい、邪見さん」


邪見が指差した食料になる木の実を集めながら桃花は今は食料調達もままならないので頑張って教えを身に付けようと、教えられたものの特徴を頭へ叩き込んでいった




2019/08/16
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