狐を被る〜or小説

□第8話
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*玄武*




迷宮城という名に恥じぬ入り組んだ城の中

幽助達は虫笛を求めて奥へ進んでいた


「迷宮城って言うだけあって入り組んでんな」

「階段見つけて上に行こうぜ」

「親玉の部屋は最上階と相場が決まってっからな」


先を進んでいると、幽助のポケットから電子音が鳴って桑原が飛び上がるが、ボタンからの通信に嬉しそうな声を上げる


「はーい、ボタンちゃ〜ん!」

『…』


あちらに映らない様に壁際に移動する桃花はボタンと話す幽助をジッと見つめる

幻海との約束を忘れて幽助を守るために危険を犯そうとした自分に困惑する桃花

確かに幽助は主人公な上に幻海の弟子という意味では他の者達より特別なのは確かだ

だが自らの命を投げ出してまで守りたいと思うのはもしかしたら山吹乙女の影響なのかと桃花は悩んでいた

奴良リクオの父である奴良鯉畔の元嫁、山吹乙女はリクオをそれはそれは気に掛けていた

その想いは羽衣狐として成り代わってしまった桃花にすら影響する程強いものだった


『リクオ…』


私が感じているこの想いは私のもの?

それとも山吹乙女のもの?


『私はまだ私ではないの…?』


それは幽助とボタンの声で簡単に掻き消される程度の小さな呟きだった

だがその呟きは妖怪である蔵馬と飛影は拾い、マントのフードを深く被る桃花を見つめる


「…あ、ところで蔵馬
四聖獣ってどんな奴らなんだ?
急いで来たから何にも知らされずに来たんだが、妖怪の事ならオメー達の方が詳しいだろ」


幽助の質問に蔵馬は桃花から視線を移しながら答える


「霊界が彼らを魔界に封じこんでいる事からも分かる様に危険な連中だよ
かなり人間離れしてるからビックリするかもね」

《お褒めの言葉、ありがとうよ》

「「!!」」


突然響いてきたしゃがれ声に緊張が走る

そして目の前にある扉を幽助は勢いよく開けた


「ここか!!」


バンッ!!

開いた先は石造りの広い部屋だった

そしてそこに居たのは…


「グフフ、よく来たな
四聖獣一の力の持ち主、この玄武様が可愛がってやるぜ」


巨大な岩の妖怪、四聖獣の一人の玄武が居た


「ででで、でけェ!!」


玄武の姿を見て驚く桑原が思わず吃りながら叫んだ


「上に行く階段はここしかないぜ
オレを倒して行くか、死体となって行くかだ
纏めて掛かって来ていいぜ
その方がオレも手間が省ける」

「じょ、冗談じゃねェぜ!!
どうやってこんな化け物と闘うんだよ!?」


気圧されている桑原を横目に桃花は自分が行こうと前に出るが、そんな桃花の腕を掴む蔵馬


「俺がやろう
敵の性質が分からない以上、全員で行くのは危険だ」

『…邪魔する気?』

「いいえ
あなたや飛影ばかりにいい格好をさせるわけにはいかないだけですよ」


腕を掴む蔵馬を桃花は睨み付けるが、彼は微笑むばかり

桃花は諦めて蔵馬の腕を振り払い、そっぽ向く


「一人ずつ死にたいか
それもいいだろう」

「む、無茶だぜ!
それよりなんとか隙を見て上に進んだ方が…」


玄武に向かう蔵馬に幽助は声を掛けるが、そんな彼を飛影は鼻で笑う


「貴様は蔵馬の強さを知らんからな」


冷ややかに言い放った飛影は真っ直ぐに蔵馬の背中を見つめた


「何故オレが奴と組んだか教えてやる
敵に回したくないからだ
自分に危害を加えようとする者に対する圧倒的な冷徹さはオレ以上だぜ」


飛影の言葉に自然と蔵馬へ視線が集まる

原作を知る桃花は朧げに思い浮かぶのはなんとか武術会で食妖植物を操る妖狐蔵馬の姿

確かに…

怒らせると怖いタイプだよね

記憶を振り返りながら桃花は蔵馬の背中を見て目を細める


「さぁ…どこからでもどうぞ」


そう言って玄武に向かい合う蔵馬だったが、玄武は動きを見せる様子がなかった


「…来ないならこちらから行きましょうか」


そう言っても動きを見せない玄武を訝しむ蔵馬だったが、離れて見ていた幽助が何かに気付く


「あの野郎の尻尾が硬い床の中に溶け込む様に入っている!?」


幽助が気付いたと同時に蔵馬の背後の岩の床から玄武の尻尾が出てきた


「なにィ!?
蔵馬の背後から尻尾だけが出てきた!!」

「ぐははは!
オレは岩と一体となって移動することが出来るのだ!
岩を通せば尻尾だけの移動など朝飯前よ!!」


蔵馬も気付き、咄嗟に身を捩って致命傷を避けたが攻撃自体は避けきれず玄武の尻尾が蔵馬の腹部を引き裂いた

血を流しながら膝をつく蔵馬は腹を抑える


「岩と一体になり、その中を自由に動けるオレにとってこの部屋全体がオレ自身なのだ!
貴様に逃れる術はない!!」

「蔵馬、大丈夫か!?」

「心配はいらない
かすり傷だ
不意をつかれて多少驚いたけどね」


幽助の言葉に蔵馬は微笑むが、その額には脂汗が滲んでいた


「強がりもいつまで言っていられるかな…
これからが本番だぜ、ククク…」

「ああ!!
こ、今度は玄武の体全部が岩の中に沈んでいく!」


床に沈み込んでいく玄武に桑原が声を上げるも完全に玄武の姿が消える




2018/03/09

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