狐を被る〜or小説

□第7話
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*重なるキミ*




コエンマの司令で飛影と共に妖魔街に向かった俺たちは、腐餓鬼に囲まれた幽助を見つけて合流する

幽助と一緒に来ていた桑原君に自己紹介を済ませ、迷宮城に向かおうとした時

飛影は何かに気付いて声を上げる


「誰だ、そこに隠れているのは!!」


すると物陰から全身をマントで覆い隠した人物が現れた

霊気も妖気も感じない上に気配も希薄なその人物に警戒心が高まる


「誰だオメー」

「また新手かぁ?」

『…いいえ、コエンマから頼まれて来たの
浦飯幽助、あなたの手助けをと…』


黒いマントで全身を覆ってはいるものの、背丈や声からして女だろう

透き通る様な静かな声、けれども真があり耳に残るその声に胸がざわつく


「俺の?」

『そう、私は…』


不自然に口を噤んだ彼女だったが、突然彼女の纏う空気がガラリと変わる


『…(わらわ)羽衣(はごろも)
幽助、あなたを守るために(わらわ)はここへ来た』


唯一見える口元に笑みを浮かべる彼女、羽衣はマントで見えはしないがただただ真っ直ぐに幽助を見ていた

そんな彼女に幽助も警戒心無く近寄っていく


「そうだったのか
コエンマも偶には気が効くじゃねぇか
知ってるみたいだが俺は浦飯幽助
よろしくな!」

『えぇ、よろしくね』

「俺は桑原和真ッス!」


あの見た目だがすぐに溶け込む彼女に飛影は警戒しているのか、いつもの憎まれ口すらも開かない


「…目の前に居るのに気配が薄過ぎるせいか幻影を見ているようだ」

「不思議な空気を持つ方ですね」


クスクスと笑みをこぼしながら幽助と桑原君を揶揄う彼女は掴み所が無い

コエンマが寄越したとはいえ信用して良いのだろうか…


「そういやあの二人の事は…」

『知ってる
だから自己紹介はいらない
それよりも先に進もう、幽助』


俺たちに見向きもせず、彼女は幽助の腕を引いて迷宮城に向かう

俺たちに興味がないと言わんばかり

むしろ幽助以外興味が無いのか?

そんな彼女の後に続きながらどう接していこうかと迷う中、迷宮城の入り口らしきトンネルを見つける


「ここが入り口か」

「やけに長いトンネルみてーな門だな」


足を止めてトンネルをまじまじと見る幽助と桑原君

御世辞にも普通の入り口とは言えない

何もなければ良いが…


「虎穴に入らずんば虎子をえーず
前進あるのみ!!」

「フン、竹を割ったような無策だな」

「あんだとこのチビ!」


飛影と桑原はソリが合わない様子で、そんな二人に彼女は袖で口元を隠しながら笑みをこぼしていた

二人の仲の悪さに痺れを切らして歩き出す幽助の後に続く

しばらく歩いているとようやく出口に出るのか、光が見えた

その時、彼らの前に翼の生えた一つ目の使い魔がパタパタと羽音を鳴らして現れた


「ようこそ、迷宮城へ」

「しゃ、喋った…」

「この城に入らんとする者達は裏切りの門の審判を受けなければなりません」

「審判だぁ!?」


使い魔は徐に壁にあったレバーを引いた

レバーが引かれたと同時に地響きが鳴り出す


「テメェ、なにした!?」


辺りの様子を伺っていると天井が徐々に迫っている事に気付く


「ハッ、なに!?」


走って出るにも間に合わず、咄嗟に天井を受け止めるが身動きが取れなくなる

使い魔曰く、支えている者の力を読み取り、ギリギリで耐え得る重さで重圧をかけるという

少しでも気を抜けば仲間を道連れにしてしまうがこのまま長くは保たない

このままでは全員潰されてしまう…


「く、くそったれが…!
ふざけやがって…!」

『ぅ、ぐ…』


彼女の声にハッとして振り返れば歯を食いしばって天井を支える彼女の姿が…

彼女が妖怪か人間かは知らないが長くは保たないかもしれない

早くなんとかしなければ…


「飛影、奴の傍にあるレバーを引き上げてくれ!
この中で一番素早いのは飛影、おめーだ!!」

「バカヤロ浦飯、血迷ったのか!?
お前が行け!!
どーもオレはそいついけ好かん!!」

「…そこの潰れた顔の奴の言う通りだ」

「つぶ…誰がだコラァ!!」

「オレなんかを信用して良いのか?
オレは、お前を倒そうとした男だぞ
そのままずらかるかもしれないぜ…」

『…なら、もう一つの手は如何ですか?』


苦しげに言い放つ彼女のその提案は…

彼女自身を犠牲にするというものだった




2018/03/05

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