青エク/治癒姫

□時の王の嫉妬
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「待ちなさい
ナイフをどうする気ですか?」

『え、血を出すために腕を切ろうと…』

「昨日の様に首から飲んではいけませんか?」


懇願する様に寂し気に言われれば彩乃はそれ以上何も言えなくなる

唯一物申せるメフィストはルシフェルから密かに睨まれ殺気を向けられて何も言えないでいた
アマイモンもその殺気に当てられて青褪めている状態だ


「昨日の様に沢山飲みません
だからナイフではなく、こちらから飲んではいけませんか?」


そう言って細く長いルシフェルの指が首に這わせられ、その刺激に彩乃はナイフを落としてしまう


「痛くしないようにします
ですから…」

『…っ少しですよ!
本当に少しだけですからね?』


だからそんな顔して近付いて来ないで!

まるで捨てられた子犬のようにしょんぼりとした表情のルシフェルは元から儚げな印象を持つ美青年だ
相乗効果で余計に心が痛む上に、光の王であるせいか何故か無駄にキラキラして見える

もう直視出来ないぐらいにキラキラで悲壮なオーラを纏っている病弱な王様
なんて乙女ゲーだ!?と突っ込みたい彩乃だったが、とりあえず大人しく従わないと色々ヤバい


「ありがとうございます」


…キラキラレベルが上がったよこの人

僅かに微笑むルシフェルに彩乃は遠い目をしながら髪を寄せて大人しく首を差し出す

血を吸おうと引き寄せられた瞬間、ルシフェルからふわりと甘い香りがした
洗剤のような爽やかな香りとバニラの感じが強いアンバーの香りだった

喉がコクリと鳴った
彩乃はそれが血を飲まれる緊張のせいか、別の何かなのかは判断出来ずに居たが、それを考える前にルシフェルの牙がゆっくりと彩乃の肌を貫いた
昨日よりは痛くないが、やはり少し痛みを感じる
だがその痛みはすぐに薄れ、ルシフェルの舌が這う感触に彩乃は息を呑んだ

ざらりとした生暖かい舌が傷口を労わるように舐める
ドクリ、ドクリと自分の鼓動を感じながら彩乃は喉の奥の渇きを覚える
アンバーバニラの香りがより強く感じるのと同時に甘い痺れが彩乃の体を走った
甘い吐息が漏れると同時に首から顔を上げたルシフェルが驚いたような表情で彩乃を見下ろす


「私の魔力を吸収している?」


体に走った甘い痺れに頬を染めて目を潤ませる彩乃はルシフェルの言葉を聞いていなかった
だがメフィストとアマイモンはその言葉を拾い、マズい…と冷や汗を流す


「私の魔力を吸収出来るのですか?」

『ぁ…の…』


頬に手を添えられ、ジッと見つめられて初めて彩乃も気付いた

血を吸われ、無意識にルシフェルの魔力を喰っていたのだ
まだまだ全快ではないルシフェルが気付く程の量の魔力を…


『ご、ごめ、なさ…』

「私の…ハ候王の魔力を吸収して耐えれるのですか?
間違いなく人間のようですが、何か特別な体質なのですか?」

「…彼女は悪魔の魔力を糧とする“悪魔喰い”なのですよ兄上
ですが憑依体にしようとしても逆に喰われてしまう
その代わり、魔力を喰わせれば憑依体の劣化を修復出来るんです」


バレてしまっては仕方がないとメフィストは彩乃の体質を教えた
憑依体云々は実際は分からない上に実験をしていないので嘘を織り交ぜて


「昨日に続き、今日も血を失った影響で本能的に兄上を喰ってしまったのでしょう
いつもは私やアマイモンの魔力を喰わせているのですが、治癒能力は燃費が悪いようで」

「…構いません
それよりもハ候王の魔力に耐え、治癒能力がある光と血に興味があります
そして…
父上の炎以上に美しいこの蒼にも…」


艶やかに瞳を細め、ゆらりと尻尾を揺らすルシフェルに彩乃は息を呑む


「今更ですが…
お名前はなんというのですか?」

『ぇ…あ…彩乃、聖彩乃と申します』

「彩乃…ですね
私は光の王ルシフェル
人間はあまり好きではなかったのですが…あなたの事は気に入りました
是非イルミナティに来ませんか?」

「あにう…『いえ、結構です』…彩乃?」


今まで過激なまでに下手に出て居た彩乃がスッパリと切り捨てて断った事にメフィストも目を見開いた


『わたしはやりたいことがあるんです
それは此処に居なければ出来ない事です
それに…此処を離れたくはないんです』

「…私が頼んでいるのにダメなのですか?」


ゆらりと揺れるルシフェルの美しいブルーダイアモンドの瞳を彩乃は真っ直ぐ見つめ返す


『申し訳ありませんが、お断り致します』

「…そうですか」


目を細めたルシフェルはそう言って引き下がった
ゆらりと不満気に尻尾は揺れるものの、何も言わないルシフェルに彩乃は治療を再開する


『先程言ったように、点滴などの体内への薬物投与はなるべく控えて下さい
また吐血などがあれば来て頂いた方が良いですが、それまではここに通わなくても大丈夫ですよ
また肉体の劣化がなくなるわけではありませんが、わたしの血がルシフェルさんの体に馴染めばしばらくは大丈夫だと思います
初めての事なので断言は出来ませんが…』

「…本当に素晴らしいですね
苦痛が感じられない体は久し振りです
彩乃には助けられました」


ワイシャツのボタンを閉め、ルシフェルは彩乃に微笑む

先程の不機嫌さは何処へ行ったのか、今はとても上機嫌なようだ
その機嫌の良さに不気味さを感じていたメフィストは執務机から立って彩乃を自分の元へ引き寄せる
だがルシフェルはそんなメフィストを一瞥しただけだった







2017/05/11

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