青エク/治癒姫

□愚かな人間
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異変を覚えたのは蛇-ナーガ-の幼生を治療していた時だった
身に覚えのある脱力感と眩暈を感じて彩乃は戸惑う
なんとか治療は終わらせるが、不調は悪化するばかりで、なんとか自室まで戻ろうと屋敷に入るが理事長室からでないと自室に戻れない彩乃は中に居たメフィストに呼び止められた


「顔色が真っ青ですよ
どうしたんです?」

『わ、かりませ…』


フラフラの彩乃にメフィストは付き添ってベッドに寝かせてやる
彩乃の体からアマイモンの魔力は既に無く、メフィストは治癒能力を使ったのだろうと予想付けた
意識が朦朧としている彩乃の頭を優しく撫でてやると、少し落ち着きを見せる彩乃
そんな彩乃にそういえばずっとアマイモンが彼女に引っ付いていた事を思い出す

もし彼女がキス以外でも魔力を摂取出来るなら?
それまでの治療で不調を訴えない理由がそこにあった


「…接触だけでも魔力を喰えるのか?」


青褪めた顔色に少し赤みが戻る
白く華奢な彩乃の手を取ってキスしてみれば本気で探知しなければ分からない程度の量の魔力が吸い取られた

やはりそうだ
接触だけでも魔力を喰えるようだ

意識がハッキリしてきた彩乃は己の手がメフィストの手の中にある事に首を傾げた


「貴女は本当に面白い人間ですね」

『は、い…?』


意識がようやくハッキリした途端、よく分からない事を言われた
彩乃は疑問符で頭が埋まりそうになりながら笑みを深めるメフィストを見つめる


「貴女はこの世界に来てから能力の副作用が無くなったと仰ってましたね?」

『…はい』


突然の振りに戸惑いながらも答えた彩乃に、メフィストはそれは間違っていたのだと言いながら彩乃に覆い被さる
メフィストに見下ろされ、頭の両サイドに手を突かれた彩乃は身動きが出来ずにメフィストを見上げるしか出来ない


「なんとも面白い事に、貴女は我々悪魔の持つ魔力を糧にする事が出来るようです」

『…は?』

「つまり、貴女は悪魔喰らいというわけだ☆」


触れるだけで魔力を奪い、より密接に交われば更に多量の魔力を喰らう


「祓魔師に最も相応しく、最も相応しくない存在ですねぇ…」


ギラギラとペリドットの瞳を煌めかせ、心底愉しそうに目を細める彼が近付いて来たかと思えば昨日のように唇に柔らかい感触と共にトロリと甘いものが喉を通り脳を溶かす

芳醇な香りと甘く濃厚なそのナニカは身体中に染み渡り、ビリビリと痺れる
夢中でそのナニカを貪る彩乃にまたメフィストは愉悦を覚える
唇を離したメフィストに彩乃は名残惜し気に小さく声を漏らす


『ぁ…』

「これで分かりましたか?」


甘いナニカはメフィストの魔力
先程よりもハッキリとした意識と、脱力感や眩暈が無くなった体に彩乃は現実を突きつけられた


『な、んでっ…』

「原因は分かりません
ですが貴女は魔力を喰らえばより強くなれるようですね
実際、アマイモンとの接触だけで下級悪魔の治療は容易でしたし、私のような上級悪魔の治療も行えた
最初から魔力を喰っていればより容易に重度の治療も行えるでしょう」


悪魔を祓う存在の祓魔師と悪魔を喰わないと衰弱する彩乃
悪魔と対局の存在である人間の筈なのに悪魔を必要とする存在


「なんと面白い人間-オモチャ-なのでしょうね」

『…』


面白くて仕方がないという風に笑い続けるメフィストに、彩乃は戸惑いながらも思い当たる節があって否定出来ずにいた

今のメフィストからのキスもそうだが、昨日のアマイモンとのキスもそうだった
花の香りと共に甘いものが喉を通った
あの時は彼がお菓子を食べていたせいだろうと思っていたが、今思えばあれは彼自身の魔力だったのだろう


『わたし、どうすれば…』

「日常生活においては悪魔を喰らわなくても支障はないのでしょう?
治癒能力を使わなければ貴女は普通に生活していられるはずです
仮に使ったとしても時間を掛ければ喰わなくても平気なのでしょう?
問題はありません☆」


そんな保証はない
ましてやこの先の事を考えれば…


「貴女が相応の代償を下さるのなら私直々に餌になっても構いませんよ」


まさにそれは悪魔の囁きだった
見返りにどんな事を要求されるか…

だがそれこそ彩乃が求めていた悪魔の契約だった

メフィストが言うように魔力を与えられれば…
魔神の憑依と炎で弱りきった彼でも治せるかもしれない
一番確実な方法だ
だが…


『…少し考えさせて下さい』

「…結構
ゆっくりお考えなさい」


彩乃の上から退いたメフィストは、そのまま部屋を出て行った
残された彩乃は上体を起こし、メフィストの魔力が体に馴染んでいくのを静かに感じていた







2017/05/09

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