お話達

□夏風
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夏風の騒めきと共に、僕の心も揺らいだ。

「ずっと君が好きだったんだ」

彼はそう言って、頬を紅く染めていた。あの普段澄ました顔が、馬鹿みたいに赤くなっていて、林檎を錯覚させた。
彼は、10年来の友人で、苦楽を共にしてきた仲間だ。
気持ちに応えるべきだろうか。
素直に、「僕も好きだった」と、正直に打ち明けるべきだろうか。
然し、僕は、
「ごめん。お前にはもっと良い人が居ると思うんだ」
と言った。
彼は納得出来なかったのか、何度か問い掛けてきた。

「何でそう思うんだい?君以上の人なんて居ないよ」
「未だそうと決まったわけじゃあ無いだろう?」
「僕は、君とずっと一緒に居たんだよ。だから解るんだよ、僕達はぴったりの恋仲になるんだって」
「一緒に居るからって解るものと解らないものがあるよ。君は解らないものに、答えを決めつけたんだよ」

そこまで言うと、彼は顔を下に向けた。
少し言い過ぎたかな。
けど、また顔を上げて、宣言した。

「そんなに言うんだったら、君を振り向かせる様に努力するよ」

夏風が揺らいだ。木々が騒めいた。そんな事出来るのか、と。
それにも関わらず、彼は、真剣な眼差しで僕を見つめた。
僕も見入ってしまった。

昼休み終了のチャイムが鳴り、僕らは、はっ、として、別れを交わした。
彼はその時も、何かを言っていった。

「さっきは努力すると言ったけれど、それを主体とせずに、振り向かせるからね」

僕は頷いた。

「やれるものならね」

彼の挑戦を無駄にしたくなかったから。

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