お話達

□進路調査
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「進路、決まんないね」
「高校、何処にすればいいのかな…」
僕達は、放課後の教室で、2人きりで、うんうんと唸っていた。時計の針はもう「17:30」を指していた。
中学3年生の夏にもなると、進路を考えていると「遅い」と言われがちだが、僕達はその例に乗っかっている。
ワードプロセッサーの文字を見つめてばかりで、最早雑談なんか出来ないでいた。
「やっぱこういう事で悩むのってさ」
友人の「祐也」が、15分振りに話しかけてきた。
僕は相槌を打つ。
「うん」
「僕ら真面目なのかな」
「そうではないと思うよ」
即答してやった。夕暮れの暑さにやられたのか、はたまた考え過ぎて知恵熱でも出したのか、意味不明な事を言い始めた、祐也。考えが纏まったのかと思ったら、なんなんだ。
「真面目だったら、1年辺りから考えてるよ」
「そうかな」
「やっぱり馬鹿だから、今になって苦労してるんだよ。僕達は」
そう言ったって、祐也は本当の馬鹿だから「えー」なんて呟いて、首を傾げている。

1階にあるこの教室は、グランドから丸見えの、剥き出しの状態にある。
悪さは直ぐに解ると言うことなのか。
そんな事を考えつつ、僕は「進学先」の欄に、家から3駅次ぐ、高校の正式名称を書いた。
「僕は書けたから、先生に提出して、もう帰るよ」
席を立った僕に、祐也は、
「え。じゃあ、見せてよ」
と、「進学先」の欄を覗いてきた。
僕はプリントを後ろにやり、「やめろよ」と言った。
「なんで?そんな事されたら困るんだけどー」
相変わらずの、語尾を伸ばした喋りに、痺れをきらした。
「付いてくる気かよ。そういうのやめろ」
「付いてくる気だけど。なんでそんなに拒否するんだよ」
「嫌なんだよ。お前とべったりなんて」
祐也はいつの間にか、物理的に、僕に迫っていた。
「お前冷たいよなー。気づいてくれたって良いじゃんかさ」
「お、おい。なにして」
「僕はお前と居たいだけだから。お前の事好きなんだよ、本当に」
トーンはいつもと変わらなかったけど、近づいている顔は紅かった。なんだか無性に恥ずかしくなって、僕は咄嗟に顔を背けた。プリントを祐也に渡して、学生鞄を手に取った。
「勝手にしろよ…」
「有難う、お前に付いていくよ…。突然で、御免…」
「………。別に、こっちだって好きだよ…」
真っ赤な嘘だ。
祐也に恋愛感情なんか持ってない。
でも、祐也の紅い頬は、見ていて辛いものがあった。笑えなかった。気持ち悪いとは思えなかった。



「じゃあ来週な」
「うん…」
「悪いけど、僕の分も宜しくな」
相槌を打つ声が震えていた。構っていると、自分まで壊れそうだった。だから、無視して、頼み事をしておいた。

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