お話達

□先輩が人を殺した
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「この事は2人だけの秘密だよ」
先輩はそう言って、僕の頭を撫でた。

先輩が人を殺していた。殺されていたのは恐らく、先輩と同じクラスの女の人。
普段は温厚な先輩が、息を絶え絶えにして落ち着かないでいた。そんな姿を背後から観ていた。なんだか、とても美しい物を観ている感覚になった。
先輩を眺める事に熱中していると、僕は、前へ前へ、ともっと観たい衝動に駆られた。
足を、前へ引き摺る。

がたっ。

「…っ!誰だ!」
先輩がこちらに目をやる。表情は、とても引き攣っていて、怒っているようにも見える。声は焦っている感じだった。
しまった。
熱中する余り、前にあった屑籠に気づかなかった。
僕は危機感を感じて、慌てふためいた。
「あ、あの、せ、せ、先輩」
怖くて怖くて、吃ってしまった。
何が怖いかはわからないけど、多分自分も巻き込まれると思ったからだと思う。
「先輩、あの、許して下さい。僕はただ」
もう目の前が見えないくらい慌てて、必死に言い訳を探した。
いざという時出す為の声も、準備するつもりで。
「でも、こ、こ、殺しなんて、殺しは…」
そこまで言いかけて、やっと先輩の公道が読み取れた。右腕をあげていた。殺される、と察した。
観念して、目を瞑る事にした。
でも。
殺されるわけじゃあなく。
何故か頭を撫でられていた。
「え…」
僕はまた戸惑う。なんで頭を撫でたんだろう。理解が出来ない。
理解が出来ない中、先輩はこう言った。
「よく悲鳴をあげなかったね。偉いよ」
先輩は普段からよく褒めてくれる。
でも、こんな時にまで褒めるとは。
「僕ね、人を殺したんだ。でも安心して、君の事は巻き込まないから」
そんな事を言ってほしいわけじゃあ無いけど、でも、なんだか声を聞けて安心した自分が居た。
「でもね、この事は2人だけの秘密だよ。誰かに言ったら、君まで巻き込まれるからね」
「はい…」
「約束だよ…?」
「はい…」
「指切りげんまん、しよっか」
指切りげんまんをして、その日はもう帰って、自分の部屋に戻ってすぐに眠った。
 

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