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□ハッピーなバレンタインを
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この頃は何となく周りの空気が落ち着かない時期ではないだろうか。
意中の相手にどんな贈り物をしようかと、想い悩む人。
気にしていないフリをしているが、心中穏やかでない人。
そんな雰囲気が街を包んでいた。

ここにも例に漏れず、そわそわと落ち着かない人がいた。



勢いで作ってしまった特製の手作りチョコレートを穴が空くほど睨みつける男が一人。
素朴だが器用なルパンらしく丁寧なラッピングが施されており、落ち着いた色のリボンがかかっている。
相手の好みを考えて、かなり甘さ控え目のビター風味のテイストで作ったトリュフ。


ルパンは悩んでいた。どう渡そうかと。

いつも美女を口説くように…いやいや、相手はあの次元だぞ、と思い直す。

あーこれバレンタインのチョコレート、作り過ぎちゃったからあげるわ!…いやいや古典的なツンデレか俺は。

もう何十年と一緒に居るものだから、改まってとなると気恥ずかしいものである。


「帰ったぞー。」

はっ、と我に帰ったのも束の間、振り返るとそこには次元がいた。

「次、次元….っ!」

普段のルパンなら絶対に次元の気配に気付いていたであろう。
不覚にも目の前のことにばかり気を取られてしまっていて全く気がつかなかった。

机の上に置いてあったそれを急いで後ろ手に隠したが、次元の口角がつり上がったところを見ると遅かったらしい。

「いまなんか隠しただろ?」

「いや、なーんにも。」

そう言ったが次元に急に押し倒されて無理矢理後ろ手に持っているそれを奪われそうになる。
必死で抵抗するが、単純な力勝負では次元に敵うはずがない。

ぎゃー、わーと大の男二人が叫び声をあげて戯れた。




「それ、俺にくれんのか?」

次元はルパンが持っていた箱を指差してそう言った。

にまにまと笑いかける次元を見て、ルパンは急に恥ずかしくなり、顔を耳まで真っ赤にして叫んだ。

「はぁ?これは俺様が貰ったもんなの!一口だってやらねーぞっ!」

ルパンはかあっと熱くなり、せっかく綺麗にラッピングした箱を乱暴に開封していった。
現れた小さな箱には、丸いトリュフチョコレートが数粒入っている。
それを一粒取り出すと、ルパンは勢いよく口の中に放り込んだ。
ビターの効いたチョコレートの香りが鼻を抜けていく。
甘さはそこまで強く無い、チョコレートの濃厚な風味が口に広がっていく。

「あーこれすっげぇ美味いなぁ〜。残念だねぇ次元ちゃんはこんなに美味しいチョコを食べられないなんて。」


嫌味ったらしくルパンは次元にそう告げ、残りのチョコレートも次々と口に放り込んだ。


「おいおい、一粒くらい取っといてくれよ。」

次元も慌てたようで、急いでルパンを止めようとしてきた。


「やだもんねー、お前の分なんか無いもんねー!」

最後の一粒に手を伸ばして、親指と人差し指で摘むと次元に見せつける様に掲げてから口の中に放り込んだ。

「あー美味しい〜!」

「……。」


急に黙り込む次元。
しまった、やり過ぎたか。
心配になって下からそっと覗き込む。

「次元….ちゃん…?」


上から優しくキスが降ってきた。
油断をしていたから、柔らかく唇に触れてくるそれを拒む事は出来ず、呆然としていた。
すかさず次元はルパンの頭を両手で包み込むと、深く口づけた。
二人の舌がクチュリと水音を立てて絡まった。
ルパンの口内にはまだ先程のチョコレートが残っていて、二人の体温で溶け合っていく。



「は…!」

ルパンは次元を押し退け、逃れようとしたが腕を引かれて引き寄せられた。
次元はルパンの手を取り、指先に着いていたチョコを指ごと口に含む。

「…っお、い…!」

指先が熱くぬるりとした次元の舌に包まれる。
驚いて手を引っ込めるが、次元がそれを許さなかった。
手に着いていたチョコレートを舌先でたっぷりと堪能した次元は、ルパンを見て笑った。

「美味かったぜ、俺にはちと甘過ぎたけどな。」

最後に軽く唇で指先に触れて次元が離れていく。
満足気に笑う次元を見つめて、ルパンは舌打ちをした。

「けっ、ロマンチストが。」

至極不機嫌な泥棒を見つめて、至高のガンマンは幸せそうに微笑んだ。


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