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□あの日の小話。
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「そういやお前、ちょっと騙され過ぎやしねぇか?」
「ん?何の話?」

愛車のフィアットでのんびりと観光でもしようかと車を走らせていた時だった。
どこまでもなだらかな風景が続き、ご機嫌で
鼻歌を歌っていたルパンに次元は問いかけた。

「こないだのアルベールとか言うヤツの事だ。敵のアジトに乗り込む時のやつさ。」
「……あーれま。聞いてたの。」
「まぁな。」

どうしてもアルベールに会いに行くと聞かない相棒に、次元は橋の上で打たれたあの時みたいに何かあったらと思い、ルパンのネクタイの後ろに盗聴器を仕掛けておいたのだった。
どうせ言っても聞かないことは分かっていた。俺もこいつも、そういう所は似た者同士だ。
いつもルパンがする手口だったため、すぐバレて外されてしまうかと思っていたが、案外すんなりと上手くいったため驚いていた。
そこまで余裕が無かった、という事か。

「あんな野郎にあそこまで突っ走るしかないって言われて、囮にされるかもって疑問が湧かないもんかね。」
「へいへい…。あの時はそんなこと考えもしなかったんだよ。」

口を尖らせ見るからに不機嫌になったルパンを横目に、ふーんとだけ言って聞き流す素ぶりを見せた。

そこで会話が途切れ、車のエンジンの音がやけにうるさく感じた。
次元は会話を続ける事が出来なかった。
口を開くと、皮肉しか出てこないと
思ったから。
ーーいや、違うな。
相棒に知られたくない、知られたら恥ずかしいと思うどす黒い感情が喉の奥まで出掛かっていたからか。



ーーー昔、組んでた相棒、か。

アイツのこと、随分と信頼してたんだな。

アイツとはどんな相棒だったんだ?

そんなにヤツの事が大切なんだな。



そんな事ばかりが頭の中を駆け巡って、
このまま会話を続けたらいつ口から意図せずして飛び出てしまうかわからなかった。




はぁ、と運転席から聞こえたのため息に気づき視線を向けると、ルパンがこちらをじっと見つめていた。

少し居た堪れない気持ちに苛まれ、次元は思わず視線を逸らしてしまった。
先程は一人で考え込んでしまったため、こちらを見ているルパンの視線に気がつかなかった。
自分が考えていた事が見透かされてしまったのではないだろうか。
バツが悪くなり、次元はボルサニーノのつばを持ちいつもよりも目深に被った。

ルパンの次の言葉を聞くことが、
少し怖くなった。



「いつもの調子で出て行っちまったんだよ。」

ルパンはやれやれといった様子でそう告げた。






「…お前とだったら、いつもの事だろうが。」


はっと紡がれた言葉に思わずルパンに視線を
戻すと、彼はこちらには顔を向けずにそう言った。
ぼそりと呟かれた言葉は気を付けなければ聞き逃してしまうのではないかと思うほど。
次元はぽかんと口を開けて彼を見ていた。
顔は背けられているため、ルパンがどんな表情をしているのか見る事は出来なかった。
だがルパンの耳が少し赤くなって見えるのは見間違いでは無いのだろう。
見る事は出来ないが、どんなカオをしているのかを想像するのは容易いことだった。


「…そうか…。」

気の利いた言葉は見つからなくて、出てきた
言葉は当たり障りのないものだった。

「 …ああ。」


ルパンも一言、そう言っただけだった。



次元は窓の外に目を向けた。

ルパンに自分の顔を見られないように。

どうしたって上がってしまう口角をルパンに知られたくなかったからだ。
ルパンのそんな一言だけで、?こんなになってしまうのは知られてしまえばからかわれるに決まっている。
自分もつくづく簡単な男だなと次元は思った。

「そんなことより、次元。次の仕事の話だけっども…。」

照れ隠しかのように、ルパンは無理矢理話題を変えた。

ーーー真の相棒は、たった一人だけ。
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