colorful*world

□10 色とりどりのセカイ
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そのセカイはカラフルだった。


幾つもの色に満ちあふれた不思議のセカイ。

夢と現実は表裏一体で、今この時間がどっちなのかわからなくなる。



この間見たときよりも、ぐっと心に残るそれぞれのシーン。

あの時みたいに涙はもう出ない。

それ以上に、暖かくて軽やかな気持ちが触れてくる−−−…



観に来て、良かった。

本当に良かった。

心からそう思えた。




「……」

お芝居が終わると、カーテンコールを待たずに私は席を立った。

最後まで観ていたい気持ちが強かったけれど、終わった後に皆に合わせる顔がない。

さんざん迷惑をかけて挨拶もせずに帰るのは失礼かとも考えた。
けれど、この、千秋楽という素晴らしい舞台の空気を、私という異質な存在で澱ませたくない。

後できっちり御礼をしよう。そう思った。


幸いにも、後から客席についた私は一番後ろの席に静かに座ったし、このまま同じように静かに席を立てば気づかれずに出れるだろう。


入ってきた扉を戻ると、そこはもちろんスタッフ専用の区間で私は足早にロビーに戻ろうとした。

すると、突然楽屋から出てきた人影にぶつかってしまい、慌ててすみませんと頭を下げる。

ぶつかった相手はいや、こっちこそ悪い、と言いかけると、私の顔を見たとたんその表情を厳しくさせた。

「…なんだあんた、見ない顔だな。スタッフ証もつけてないし…無断で侵入したのか」

その人は私の腕を掴んで拘束すると、尋問するように問い詰めた。

キッと睨むその顔はどこか見覚えのある顔をしている。いや、けれど絶対に初対面だ。

「何か盗んだりしてないだろうな」

「え!?いっ、いえ、私…っ」

「はぁ…。何してるんだよ、ポンコツ役者」

問い詰められて狼狽している私を掴む腕を、いつの間にか現れた幸くんが離してくれた。

「幸、聞いてくれ。こいつ侵入者だ。こんな所にまで入ってきて…」

「バカ。この人は監督の知り合い。関係者席に招待してたの」

幸くんが呆れた声でそう言うと、隣の男性は目を丸くさせて私を見た。

「わっ、悪かった」

「ったく…ってか、あんたは天馬を見てもノーリアクションなんだね」

「え?」

そう言われて改めて天馬、という人の顔を見る。

確かにどこかで見たことがあるような気がするが、どうしてもピンとこないでいた。

「あまりにも眩しい俺のオーラに言葉がでないんじゃないのか」

「は?バカ天馬は脳みそにまで花が咲いてるの?それだけ知名度低いってことじゃん」

「んだと幸ぃ!」

口げんかする2人をよそに私は一生懸命記憶の糸を辿る。

そして、ようやく彼が何者なのか理解する事が出来た。

「えっと、す…す、皇天馬!くん!」

私が唐突に声を出すと、天馬くんは得意気ににやりと笑う。

「サイン欲しくなったか?」

「あー…、えと…あはははは」

「はっきり要らない、って言っていいから」

幸くんの一言でまた2人のいさかいが始まってしまった。



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