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□03 不変のアシタ
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家に帰ると、既に圭太が帰宅していた。
時間はまだ17時を過ぎた頃で、私は慌ててリビングへと走った。
「圭太!早かったね。おかえり」
圭太はソファに座ったまま私の方を見ると、にっこりと笑った。
その時、赤くなった左頬に目が行って、私は思わず「どうしたの?!」と駆け寄っていた。
「ここ…腫れてる……って、手の甲のとこも、傷が……っ」
まるで釘のような細いものでひっかかれたような線状の傷が走っていた。
「ん、ちょっと同僚とけんかになっちゃってさ」
気まずそうにそう笑うと、もう痛くないから平気だよ、と言う。
「手当しないと……」
そう言って寝室の方へ行こうとすると、圭太は私の手をぐっと掴んだ。
「もう大丈夫だって。それより、香奈はこんな時間までどこに行ってたの?」
口元だけは笑っていたけれど、その目は私を射貫くように鋭い視線を送る。
その視線に出来るだけ動揺しないように、私は平常心で声を出した。
「天鵞絨駅に行ってたの。知り合いの子がやってる舞台が公演されて、前から誘われてたから行ってきた」
「舞台?知り合いって、男?」
「違うよ、大学の時の友達。圭太も知ってると思うよ。立花いづみちゃん。覚えてる?」
そう言うと圭太はあー……と抜けた声を出す。
「何となく覚えてるわ。で、なんて劇団なの?」
「MANKAIカンパニーっていうとこ。いづみちゃんが総監督やってるの」
圭太はふーんと言いながらスマートフォンをいじり始める。
そしてすぐに「なんだよ、劇団員って男しかいないのかよ」と、声を少しだけ荒げた。
「た、宝塚の逆バージョンみたいな感じじゃないのかな。お芝居は凄く素敵だったし、いづみちゃんも頑張ってたよ」
「はっ、どうせ自分好みの男を侍らせて毎晩とっかえひっかえする為の劇団なんだろ?
誰にでも愛想振りまくようなやつだったもんな」
圭太はひどく軽蔑するような表情でそう吐き捨てると、こんな劇団の芝居なんてもういかなくていいよ、と続けた。
「香奈は優しいから、誘われたら断れないんだろ。次しつこく言われたら俺が断ってあげるから、すぐ言いな」
「……うん」
胸にぞわぞわと渦巻く感情を抑えながら、私はそう答えるだけで精一杯だった。
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