転生録
□魔法1年目
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「はじめまして、かな。君の新しい父となる人物です。フォーマルハウト・ブラックと言うんだ」
目の前にいる、サングラスをつけたガタイのいい男。俺は、この人物を知っている。初めて会ったけれどこの男のことは知っていると俺の脳が騒いでいる。
「そうちょう?」
「…覚えているんだね、カノープス。俺のことを」
無意識でこぼれ落ちた言葉。ソレを認識した途端、ぶわりと脳内で記憶が再生される。早送りで再生されるソレはまるで映画を見ているようなものだ。脳処理が追いついていないのか、頭痛が発生したらしい。ズキズキと痛む。
「…いえ、今思い出しました」
己の米神を押えている手は、記憶で見たものとは違って小さくぷにぷにしている。訓練でできたマメも、戦場で作った傷も何もない。
「転生、でいいのでしょうか」
「そうだね。そうなるんだろうなぁ。でも、ここで話してはいいものではないだろう?俺らの家に行ってからにしようか」
「…了解です」
曹長の差し伸べられた手は、記憶にあるごつごつとしたものではあるが、傷はなかった。やはり、この世界は違うのかと現実を突きつけられた気分だ。ズキズキと未だ痛む頭に眉をひそめると、後で頭痛薬あげるよと優しい笑顔で言う曹長はどこか懐かしそうだった。
「俺の手をちゃんと握っていてね。それじゃないとバラバラになっちゃうかもしれない」
「は、バラバラですか」
「うん。ちゃんとソレについても話してあげるから今は何も言わないでね」
「了解であります」
曹長の手を小さな手で握り、見上げるとあの時に見たような豪快な笑顔をしていた。それじゃあ行こうか、と言った曹長様に返事をしようとしたらぐにゃりと視界が歪む。グルグルと狭いところを通るような感覚が不快で仕方がない。
「さあ、着いたよ。大丈夫?初めてコレをすると吐く人が多いんだけど」
「……昔の訓練の方がヤバかったです」
「あっはは、やっぱりそう思う?隊長の脳筋具合がこんなので証明できるとは俺も思わなかったんだよね」
さあ、ちゃんと周りを見てごらん、と楽しげな声で言われたら拒否権なんてない。胃の中がグルグルと気持ち悪いし頭痛も悪化しているような気がするが、根性で視線を周囲にもっていった。
「……孤児院、ではない?」
「姿現し、と言うんだ。まあ簡単に言うと隊長が滅茶苦茶研究してた瞬間移動。大人の魔法使いは大体ができる魔法だよ」
「魔法」
目の前に広がる一面の緑。見たことのない植物がうねうねと動いている。真っ黒で大きな屋敷の近くには見たことのない動物が走り回っていた。
「おかえり。ここが俺らの住む家だ」