ライツうさ
□至れり尽くせり
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う「いったぁ〜い(泣)」
大「いいですか、手を少し上に上げて……そう、そのまま動かさないでくださいね」
う「は、はい……(泣)」
大気さんはあたしの指に出来た傷を、ティッシュの上からそっと圧迫する。
優しいけれど少し強めの力が、あたしの指をぎゅっと握る。
う「……っ」
大「痛みますか?」
う「ちょっと……」
本当は結構痛いし、出血もなかなか止まらない。それでも大気さんに心配かけたくなくて、控え目に答えてしまった。
大「思ったより傷が深いようですね。防水絆創膏を貼っておきましょうか」
大気さんの表情が心配そうに翳る。
お料理を手伝っていたのに、こんなことになって申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
う「はい。ごめんなさい。」
大「謝らないでください。料理をしていればこういった傷のひとつやふたつ、できることもあります」
大気さんがぽんぽんとあたしの頭を撫でた。 大気さんがあたしの頭を撫でるなんて、少し珍しい。あたしを気遣ってくれてるのかもしれないと思うと、とても胸が温かくなった。
夜「…ただいまー……。」
星「さみぃ……ん?」
痛みで玄関が開いた音に気づかなかった…不意にリビングの扉が開き、大気さんの肩越しに仕事から帰ってきた二人が入ってくるのが見えた。
あたしと大気さんを見て、その目が少し見開かれ、足の動きが止まる。
大「ああ、おかえりなさい。すみません、ご飯もう少し待っててください。」
大気さんは後ろを振り返りそう言った。
星野達はリビングのテーブルを見つめて状況を把握した。
あたりにはあたしの血を止めようとして使ったティッシュが、ちらばっていたからだ。
星「また切ったのか;」
夜「結構酷くやったんだね…。」
呆れた様に言ってるけど二人はあっという間に駆け寄ってきて、心配そうな表情を見せる。
星「傷は深いのか……?痛みは?」
身を乗り出す星野を窘めるように、大気さんが冷静な声で答えた。
大「今止血中ですよ。見ればわかるでしょう」
星「ご、ごめん……その、心配でつい」
叱られた子供のように肩を落とす星野に、大気さんも少し表情を緩める。
ほんと大気さんってあたし達のお母さんみたい。
なぁんて言うと「私はうさぎの彼氏です!」って照れながら怒るんだけどね…。
大「すみませんが夜天。戸棚の中の救急箱を取ってくれますか?防水の絆創膏が入ってるはずですから」
夜「ん、分かった。今持ってくるよ」
そう言うと夜天くんは、救急箱のある戸棚の方に向かった。
大気さんはティッシュを少しどけて、あたしの傷の確認をする。
大「少し出血が落ち着いてきましたね。これなら大丈夫そうです」
う「ありがとう、大気さん」
そうは言っても、傷はまだ脈を打つように痛む。それに、そこらじゅうにある自分の血のついたティッシュを見ていると、少し気分が悪くなってきた気がする。
頭がふらふらして吐きそうだ……。
夜「大気、これでしょ?」
大「はい、そうです。ありがとうございます、夜天」
大気さんが夜天くんの差しだした絆創膏を受け取る。フィルムを剥がしあたしの傷にそれを丁寧に貼ってくれる。
星「なあ、大気。おだんご、顔色悪くないか?」
大「え?」
星野の一言に、傷の方に気を取られていた大気さんがあたしの顔をじっと見る。
そして、あたしの右肩に手を置き、とても優しい声で続ける。
う「た、大気さん、あたしだいじょ…」
大「うさぎさん、無理せずに具合が悪い時はそう言ってくれていいんですよ? 出血や痛みでそういった反応が出ることは珍しくありません」
星「そうだぞ、おだんごは少し我慢しすぎるからな」
夜「もっと僕らに甘えなよ」
3人ともあたしの傍に跪いて、あたしが答えるのを待っている。
ここは我慢せずに言ってもいいのかな……。
う「……あの、さっきからちょっと……頭がふらふらして、気持ち悪い…………」
大「貧血ですね」
「「だな/だね」」
3人が顔を見合わせる。
ああ。貧血か……。
ふらふらする頭では、そう思うのがやっとだった。
う「……あっ……」
視界がぐらりと揺れたかと思ったときにはもう遅かった。
大「っと……!」
「「おだんご!/うさぎ!」」
倒れかけたあたしの身体を、大気さんがしっかりと受け止める。
星野達の声もかろうじて耳に届いた。
あたし…心配ばかりかけちゃってる…。
大「こんなになるまで我慢するなんて……貴女はもう少し甘えることを覚えなくてはいけませんね」
う「…………。」
あたしは答えることもできず、力強い大気さんの腕に身体を預けた。
大「……いえ、気づかなかった私の方がいけなかったですね…。」
そう言った大気さんの腕に、ぎゅっと力がこもるのを感じた。
大気さんのぬくもりは、とても温かった。
う「たい…きさん……」
ちょっと指を切っただけでこんなふうに心配してくれるなんて…みんな優しくて涙が出そう…。
きっと自分ひとりだったらパニック起こして、暴れまわって、大惨事だったと思う。
そんな考えが脳裏をよぎって、あたしはぎゅっと強く目を瞑った。
大「星野、うさぎさんを寝かせるので、そのクッションを足の方の枕代わりにしてくれますか?夜天は部屋からブランケットを持ってきてください」
それぞれ役割を任され、星野はソファに置いてあるクッションを足元へ持っていき、夜天くんは部屋からブランケットを持ってきてくれた。
大気さんは身体を離し、あたしをソファへ寝かせてくれた。
星野はあたしの足をクッションに乗せてくれて、夜天はそっとブランケットを掛けてくれる。
あたしは目を閉じたまま、3人の声を聞いていた。
こんなあたしにここまでしてくれるなんて…。
3人が居てくれて良かった…。
すごく心が温かいよ…。
迷惑をかけて申し訳ないと思うのに、どうしても嬉しい気持ちを感じずにはいられなかった。
う「みんな、ありがとね…少し楽になってきたよ」
大「そうですか。良かったです。もう少し貧血が落ち着くまで、このままここで休んでいてくださいね」
大気さんが優しい表情でそう言うのを聞いて、気分がだいぶ落ち着いてきた。
う「迷惑かけちゃって、ごめんね…。」
あたしがそう言うと、3人とも一瞬驚いた顔をして、すぐに言った。
「貴女、何言ってるんです!?」
「お前、何言ってんだ!?」
「君、何言ってんの!?」
う「!!?」
3人同時に同じことを言うので、今度はあたしの方が驚いた。
大「迷惑だなんて、思うはずがないでしょう。あなたは私達の大切な彼女ですよ。」
星「そうだぞ。おだんごが困ってたら助ける。泣いてたら慰める……そんなのは当たり前だ」
夜「君がドジなのは承知してんだから、傷の手当てぐらいどうってことないよ」
それぞれの思いを口にして、そしてまた、3人の声がハモった。
「迷惑なんかじゃありません」
「迷惑なんかじゃないんだからな」
「迷惑なんかじゃないよ」
う「は、はい……!;」
その迫力に呑まれるように、あたしも返事をしていた。
う「えっと……じゃあ……」
あたしは言葉を探した。
こんな時に言うべきなのは、謝罪の言葉ではないのだとしたら。
う「ありがと…すごく嬉しい……」
3人にそう言って、笑顔を向けた。
「「「………。」」」
あれ。どうして黙っちゃうんだろう……。
あたし、また何か間違えた……?
大「……私うさぎさんには到底敵いそうにありません……」
星「俺はそんな事始めっからわかってたけどな」
夜「星野は脳内が全部この子で出来てるんだからね」
星「まぁな」
夜「えっ;…認めるとかちょっと気持ち悪いんだけど」
星「夜天が言ったんだろ!;」
大「あなた達、うさぎがゆっくりできないでしょう?;」
3人でひそひそそんなことを言い合ってる。
あたしはブランケットを鼻の下まで引き上げて、ほんの少しだけ緩む口元を隠した。
こんな事思うなんて失礼かもしれないけど、なんだか3人が可愛らしく思えて……嬉しくて優しくて安心する気持ちで満たされる。
あたしはやっぱり…この3人が大好きなんだ♡
END