大うさ

□小さなやきもち
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カラオケの個室でいきなり行われた合コン。
さっきからあたしはソファの端で目に見えない攻防を繰り広げている。

何故あたしがこんな席に居るのかと言うと・・・


美「うさぎちゃ〜ん、カラオケ行かない?」

う「カラオケ?行く行くー♪」


・・・これだけ。

合コンと言う文字は一言も聞かされず来てみれば、あたしを待ち受けて居たのは下心ありありの男子四人組。
メンバーは、あたしと美奈子ちゃんと美奈子ちゃんと同じ中学に通っていた女子二人。
男子は隣のクラスの二人組とこちらも美奈子ちゃんと同じ中学に通っていた男子…そして絶対この席に居るべきではない人物。


それは・・・


美「ほらほら、大気さんも歌いましょ♪」

大「いえ、私は…;」

「まさか本当にスリーライツのメンバー連れてくるなんて流石美奈子よねぇ」

「ほんとほんと、ねぇ大気さん『力を合わせて』歌ってぇ♡」


あたしと一緒で美奈子ちゃんに無理矢理連れて来られた大気さん。
大気さんが来たことによって女子は大気さんにしか興味がない様子。


そのお陰で他の女子に相手にされない男子達はあたしの元へやってくる。


「月野さんって休みの日何してんの?」

う「友達と遊んだり、家でのんびりしたりとかかなあ」


「彼氏居んの?」


前のめりで直球の探りを入れてきた質問に男子達の目が微かに鋭くなる。
その質問に何故か大気さんの視線も感じた様な気がした。

う「今は…居ない…。」


嘘じゃない。フリーなのは事実。
恋人がいるって事にして牽制してもいいんだけど、もし嘘がバレたら面倒だし。
大気さんとの関係も微妙な所でもある・・・。

矢継ぎ早に質問をぶつけてくる男子の手が、さりげなく先ほどまでよりもあたしの手に近い位置に置かれた。
あたしはテーブルの上のグラスを持って口をつけ、手をもっと自分に近い位置に戻す。
ジリジリとこちらに距離を詰めてくる。同じように、あたしもこっそりと遠ざかる、が両隣に座られていて逃げるに逃げられない…。


「じゃあさ、今度俺と……」

う 「あ、あの…ちょっとお手洗い行ってくるね」


彼の誘いに被せるように、あたしはそれ以上口を挟む隙を与えない微笑みで立ち上がる。
遮った言葉はあくまで聞かなかったふり。


美「うさぎちゃん、次うさぎちゃん歌う番だから、早く戻ってきてね♪」

う「う、うん;」


美奈子ちゃんにそう言われとりあえず返事をして部屋を後にした。

美奈子ちゃんはどういう魂胆であたしを合コンに連れてきたんだろう…。
しかも、よりによって大気さんが居るなんて…。

店舗内のトイレはあたし達が使っている部屋から一番遠い場所にあった。
トイレ周辺に誰の気配もないのを確かめて、あたしはため息をつきながら通路の壁に寄りかかった。
背中に感じるタイルが身体にヒヤリと感じて心地良い。
ガツガツくるタイプをあしらうのは結構疲れる。
相手の男子達は結構イケメンだったし、昔の自分なら目をハートにさせてああいう風に直球で質問したんだろうな…。


大「大丈夫ですか?」


急にかけられた声にあたしは驚いて背中を離した。


う「大気さん…。」


振り返ると心配そうな表情をしている大気さんがこちらに歩いてくる。
なんとなく視線を合わせづらくて、あたしは自分のつま先を見た。


う「大丈夫…だよ。」

大「顔色があまり良くありませんよ?」


心配そうに淡々と大気さんが問う。


う「大丈夫だってばっ!……っ!!…ごめん…」

顔を上げないままで絞り出した言葉は自分でも嫌になるくらい酷かった。
こんなの八つ当たりだ・・・。


大「いえ、愛野さんの誘いを断れず来てしまったのは私の失態ですから…。」


そんなのあたしだって一緒だ。
って言うかあたしは合コンだなんて知らなかったんだけど・・・。
それでも、来て合コンだと分かった時帰れば良かったんだ。
でも、貴方の存在を見つけてしまったから帰るに帰れなくなってしまった。
普段の貴方なら断る事が出来た筈なのに、なんで合コンに参加したの?…って内心いじけているあたしが居た…。

そう思いながら顔をあげると、大気さんは未だにあたしを心配そうに見つめている。

う「合コンって初めてだけど、結構楽しいね♪あたしすっごいモテてたでしょ?一度でいいからモテてみたかったんだぁ♪」


なぁんて、気づいた時には感情とは逆の言葉が口をついて出ていた。
それが虚勢にしか聞こえないだろうというのは分かっていても、言葉がもう止められない。


う 「男ならあれくらいの押しの強さも必要だよね。大気さんもせっかく来たなら多少強引にでも攻めてみたら?みんな大気さんにしか興味ないみたいだし」


憎まれ口ならいくらだって出てくるのに。
このもやもやした気持ちを私自身が持て余している。
大気さんは軽く肩をすくめて私の暴言を聞き流した。

大「……強引に、ね…」


発せられた声はあまり力がなかった。

 
すると、正面から腕が伸びてきた。
思わず目を見開くと、大気さんがあたしの顔の両脇に手をついていた。
壁と大気さんの身体に挟まれる形で向かい合う。
あたしの顔を覗き込むように大気さんが顔を傾ける。
目が近い。まるでキスでもするかのような距離。
けれどその眼に射抜かれたかのように動けない。

大「……多少の強引さってこういう感じでしょうか?」

驚いて言葉が出なかった。その距離にじゃなくその行動に。
何を思って彼がそんな行動に出たのかはわからない。
あたしの言葉でムキになるようなタイプでもないし…。
大気さんがクスッと笑った。

大「…こういうのは私向けではありませんね。」

その瞬間、緊張が解けた。
大気さんが肩の力を抜いて息を吐きながら壁から手を離す。近づきすぎていた距離が元に戻っていく。
咄嗟に身体が動いていた。
離れていく腕にしがみつき、制服の襟を両手で掴む。彼が眼を見開いたのがわかった。
そのまま襟を引っ張り、あたしより高い位置にある大気さんの顔を引き寄せる。有無を言わせずそのまま強引に口付けた。


大「……っ!!」


驚いたせいかぐっと大気さんの身体が緊張するのが分かった。
たっぷりと堪能した後で身体を離すと、大気さんの顔が微かに赤くなっているのが分かった。
その端正な顔を羞恥に歪める事が出来るなんて…。

大「……うさぎ…さん//////」


大気さんにキスをするのは初めて。
初めて見た…大気さんの余裕ない姿。


大「どうして…?」

う「やきもち…かな?」

大「…えっ?」


本当なら来てほしくなかった…なんて自分勝手過ぎて吐き気がする。
自分だって男子達の質問に答えて、隣に座らすのも許していたのに…。
こんなの…嫌な奴の何者でもない。


う「ごめんね…二人揃ってあんまり席外してたら変に思われるし、あたし先に戻るね」

いつもの調子を取り戻して、大気さんから逃げる様に背を向け走り出そうとした。
けれど肩にかかった手に歩みを止められる。さっきとは逆に、腕を掴んで引き寄せられた。


大「やり逃げはいけませんね。」


今度は首の後に手を添えられてゆっくりと唇を重ねられる。
角度を変え、息を継ぎながら口づけを繰り返す。唇の間から割り込んでくる舌がさっきよりも熱かった。
段々とその勢いが増してきて、口内から全てを吸い上げられそうになる。

さっきよりもさらに長く激しい交戦の後、ようやく唇を離した。唾液が一筋、キラリと光って糸を引く。
いつの間にかあたしは肩で息をしていて、涙を流していた。


う「…うっ…うっ…」

大「すみません、私もやきもちをやきました。」

う「ふぇ…?」

大「私が合コンに来たのは、愛野さんからうさぎさんも来ると聞いたので…うさぎさんは隙が多いので心配で参加したんです。」


そうだったんだ…それなのにあたしは酷いことばかり言ってしまった。


大「このまま帰りましょうか?」

う「え…?でも、荷物が…」

大「それは愛野さんに任せましょう」

う「…でも…っ!!」

あたしは最後まで喋ることを許されず、また唇を塞がれた。離れた大気さんはにこりと微笑むとあたしの手をとり、カラオケ店から連れ出した。


繋がれた手からは大気さんの温もりが全身に伝わってくる気がした。



そんな変態染みた事を思いながらあたしは、大気さんと二人の世界に溺れていく。




ずっとこの手が離れないようにしっかり繋いでいて…。






END

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