夜うさ

□ご飯よりうさぎ
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寝返りを打ったとき、ふいに夢から引き戻された。まぶたの裏が明るい・・・朝だ。

ぼんやりして、どこにいるのか一瞬わからなくなった。
自分の部屋とは違う。違和感を感じているとふわっ、と安らぐ香りが鼻の奥をくすぐった。そういえば昨夜、夜天くんと一緒に寝たんだった。

夜天くんの貴重な休み。できるかぎりふたりきりでいたい。
あたしも夜天くんも、同じ思いだった。
夜天くんの仕事が忙しく、一緒に寝れたのはひさしぶりで、なんとなくいつもよりずっと仲良くした…。

次から次へ、いろいろと思い出されて、頭を抱えるくらい、はずかしくて、眠気が吹き飛んだ。
・・・もう、起きよう。
早起きは三文の得っていうし。
からだを反転させて、驚いた。
間近に彼の顔があった。ベッドの端に腰掛けて、あたしの顔をのぞきこんでいた。
びっくりして思わず顔をそむけると、彼の手が頬をなでた。
彼が笑って、ルナをなでるような手つきで…。
心地よくてうっとりとしそうになる。
ーーいけない、あたしはルナじゃない。
気を取り直して、できるだけそっけなく挨拶をする。


う「ーーおはよ。」
その声に、彼が少し目を細める。
本当に、リラックスした無防備な顔。
朝を一緒に迎えるまで知らなかった。
あたしだけが見られるんだ、と思うと、こころが満たされる気がする。たぶん、しあわせってこういうことなんだ、と思う。


夜「ん、おはよ」
 
彼の方が起きるのが早い。いつも寝顔を見られてばかりいるのが・・・くやしい。


夜「ーー何、眠いの?」
悔しさと気恥ずかしさで、枕に半分顔を埋めるあたしの頭を、優しい手がぐりぐりと強くなでた。


う「…夜天くんは眠くないの?」

夜「ーー眠くない。…このまま君の寝顔を見てるのも悪くないしね。」

寝顔って…なんとなく似たようなことを考えたんだ。
近頃、そういうことが増えていて、おもはゆい気持ちになる。
恋人ってこういう関係なんだなー、と実感する。
ちょっと眠いけど、起きて一緒にご飯食べたい。一緒にご飯も久しぶりだし…。
大気さんが昨日作ってくれたポトフがお鍋の中にあったはず、それを温めてよそってあげよう。
少し体を上げて、起き上がろうとしたあたしの頭をなでた。


夜「まだ、寝てなよ…。ちょっと無理させた?」

う「っ!!//////」

からかいと心配の混ざった口調に、手つきが柔らかいものになって、髪をなでられた。


夜「ーー照れた顔も可愛いね。」

突然、なんの臆面もなく口にする。
夜天くんのこういうところがずるい、と思う。
はずかしさのあまり、枕にしがみついて黙っていた。
すん、と息をすると、枕から夜天くんのにおいがした。ベッドにいると、身体を丸ごと抱きしめられている気がした。
もう朝なのに、へんなことを考えてしまう。
最近あたしはおかしい。なんか変態染みた気がする。
これも全部夜天くんのせいだ。


う「!!夜天くん!?」

夜「何?」

お腹のあたりに、ふっと息が掛かって、びくっとした。めくれたTシャツから、むきだしになった肌に、唇がふれていた。


夜「君の肌…きれい」

ときどき夜天くんは、予想だにしない事をしだす。
そこに、宝物があるみたいに、繰り返し触れる。今もそうだ…何が気に入ったのか、今はあたしのごくありふれたおへそのあたりにくちびるが這っていく。
夜天くんの気まぐれは心臓が持たない…。


う「何してんのよ!?////」

夜「んー」
生返事しか返ってこない。
あたしと大して変わらない体格なのに、退かそうとしても、びくともしない。
強めに肩を叩いた。ぴしゃっ、といい音がして、彼がひるむ。

夜「ちょっと、暴れないでよ!」

う「じゃあ、離れてよ!」

夜「やだ」

う「やだ、じゃない!」 

夜「お腹出してるのが悪いんだよ」

う「出してないわよ!夜天くんが、さっきTシャツ、めくったんでしょ!?」

夜「めくってないよ」

う「うそつき!」


あたしの抵抗もむなしく、ちゅっと、音をたててキスをされる。

う「ひゃっ//////」

くすぐったくて、変な声が漏れた。
止めてほしくて、逃げようとするのに、強く腰をつかまれて、動けなくなる。
お腹のおへその下を、キスされるたびに、身体の奥に伝わるみたいに、むずむずした。

う「くすぐったいよぉ!////」

夜「…ほんと不思議……あんなに食べてるのに、全然肉ないね…。」

う「もぉ、いいでしょ!////」

夜「暴れないで」

喋られると息がかかる。わざとやってるとしか思えない。
彼の頭に手を置いて、ぐいと押した。
彼の髪がしっとり湿っている。
あたしよりずっと早起きの夜天くんは、汗を流しにシャワー浴びたんだ。
あたしと寝ないときは、そんなに早起きじゃなかったとおもったんだけど…。
夜天くんの濡れた髪もあたしにふれる手もひんやりと冷たかった。

う「やぁ////」

じたばたと身動くと、余計にキスが落ちてくる。さらには、ざらっとなめられた。指の冷たさにくらべて、舌は熱い。

う「やだぁ」

夜「うさぎって甘い味がする」

う「っ!!////」

はずかしくて、本当に逃げたくなる。
彼が恥ずかしさを煽るから、身体の熱がぐんと上がる。


夜「クスッ…すぐ赤くなる。きれいだよ。」

う「もう、ほんとやだぁ!夜天くんのバカ!////」
 

臆面もなくそんなことを口にする夜天くんがはずかしくて、逃げたいけれど、逃がしてくれない。
あたしの腰に置かれた手の、親指がそろそろとなでる。不埒な気配を感じて、身をすくめる。
朝、なのに。朝から、こんなことをしてはいけない…と思う。
健全じゃない気がするし、なにより、明るくてはずかしい。
肌をさらすのも、見るのも、はずかしくて仕方ない。なのに夜天くんはまるで気にしてないし、なんだか朝の方が、楽しそうな、気がする。
今日こそは、どうにか反抗しなくては。夜天くんの手がハーフパンツの中にもぐりこもうとして、ぐんと脚を突っぱねる。闇雲に動かした脚は、ぶつかるわけもなく。なんなくつかまえられる。
ふとももの裏側に、強く吸い付かれて、甘い痛みが走る。
それは、即効性の毒みたいにあたしを痺れさせてしまい、ふっと力が抜けた。
そもそも、あたしがいくら暴れたって、かないっこない。

う「夜天くん、お腹すいてない?」

夜「ん〜……」

少しだけ夜天くんが考えこんだ。
夜天くん昨日あまり食べてなかったから、おなか空いて当然だ。


う「ご飯にしよ!」

夜「えー…」

う「大気さんの作ったポトフ美味しかったでしょ?まだあるよ!」

夜「…うん、美味しかった」

う「でしょ!だから食べよ?」

夜「でも、昨日食べて味知ってるから、君からでいいよ。」

う「なっ!!」
 
あけすけなことばに、思わず絶句すると、彼は口の端をにやっと歪める。
それも、すぐに消える。うっすらと上気した頬と潤んだ目。
口を薄く開いて、切ないような。
ともかく表情を見て、身体の深いところがうずいた。
こんな顔をするなんて、ずるい。


夜「ーーもう、おさまらないみたい。」

透き通った声が耳元ですると、さっきまでむずむずしていた身体の奥から、何かがとろとろととけだす。

あ、ダメだ。もう、抗えない。 
はあ…と深く息をして夜天くんの首にすがりついた。
視線を交わして、くちびるを重ねた。
ついばむように繰り返して、柔らかいベッドに沈んだ。

さまよった視線の端で、時計が見えた。
 
ようやく7時になったところ。
 

早起きして、得だったのか…それとも、いつもみたいに、寝坊助の方が良かったのか……。



でも、まぁ、夜天くんと一緒ならいいよね。








END

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